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民法(相続法等)改正と相続実務への影響

税理士法人 ファミリィ 代表社員・税理士 山本和義

民法のうち相続法の分野については、昭和55年以来、実質的に大きな見直しはされてきませんでしたが、その間にも、社会の高齢化が更に進展し、相続開始時における配偶者の年齢も相対的に高齢化しているため、その保護の必要性が高まっていました。平成30年に行われた民法(相続法)の見直しは、このような社会経済情勢の変化に対応するものであり、残された配偶者の生活に配慮する等の観点から、配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。このほかにも、遺言の利用を促進し、相続をめぐる紛争を防止する等の観点から、自筆証書遺言の方式を緩和するなど、多岐にわたる改正項目を盛り込んでいます。

また、令和3年にも民法等の一部が改正され、遺産分割に関する見直しや、不明相続人の不動産の持分取得・譲渡などの取扱いが整備されました。
一方、令和3年の不動産登記法の改正では、相続等による所有権の移転登記の申請を相続人に義務付ける規定を設け、また、新たに相続又は遺贈により取得した土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を創設することとしました。

そこで、第一章では、平成30年の主な民法(相続法等)の改正の概要について解説します。
第二章では、令和3年の主な民法改正の概要と、不動産登記法などの改正について解説します。

第一章 平成30年民法等の改正の概要

この章では、「民法の一部を改正する法律」、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」、及び「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の3つの改正法の概要を解説します。

1 民法の一部を改正する法律

この法律は、社会経済情勢の変化に鑑み、成年となる年齢及び女の婚姻適齢をそれぞれ18歳とする等の措置を講ずる必要があるとの理由から改正されました。

改正の内容は、以下のとおりです。

① 民法4条(成年)
改正前 改正後
年齢20歳をもって、成年とする。 年齢18歳をもって、成年とする。
② 民法731条(婚姻適齢)
改正前 改正後
男は、18歳に、女は、16歳にならなければ、婚姻をすることができない。 婚姻は、18歳にならなければ、することができない。
③ 民法753条(婚姻による成年擬制)
改正前 改正後
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。 削除
④ 民法792条(養親となる者の年齢)
改正前 改正後
成年に達した者は、養子をすることができる。 20歳に達した者は、養子をすることができる。
⑤ 民法804条(養親が20歳未満の者である場合の縁組の取消し)
改正前 改正後
第792条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養親が、成年に達した後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。 第792条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養親が、20歳に達した後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。

この民法の一部を改正する法律は、平成30年6月13日に可決し、令和4年4月1日から施行されています。なお、経過措置については、以下のように定められています。

1 第4条の規定は、施行日(令和4年4月1日)以後に18歳に達する者について適用し、この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(次項②に規定する者を除く。)は、施行日において成年に達するものとする。
2 施行日前に婚姻をし、この法律による改正前の民法753条の規定により成年に達したものとみなされた者については、この法律の施行後も、なお従前の例により当該婚姻の時に成年に達したものとみなす。

2 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律等

平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、同年7月13日公布されました。

この法律の施行日は、原則として、令和元年7月1日とされていますが、遺言書の方式緩和については、平成31年1月13日から、また、配偶者の居住権を確保するための施策については、令和2年4月1日から施行されました。

1. 配偶者の居住権を保護するための方策について

配偶者の居住権保護のための方策は、大別すると、遺産分割が終了するまでの間といった比較的短期間に限りこれを保護する方策(「配偶者短期居住権」)と、配偶者がある程度長期間その居住建物を使用することができるようにするための方策(「配偶者居住権」)とに分かれています。

(1)配偶者短期居住権

配偶者短期居住権の概要は、以下のとおりです。

1 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合の規律
配偶者は、相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償でその建物を使用することができます。
2 遺贈などにより配偶者以外の第三者が居住建物の所有権を取得した場合や、配偶者が相続放棄をした場合など①以外の場合
配偶者は、相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、居住建物の所有権を取得した者は、いつでも配偶者に対し配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができますが、配偶者はその申入れを受けた日から6か月を経過するまでの間、引き続き無償でその建物を使用することができます。
(2)配偶者居住権

配偶者居住権の概要は、以下のとおりです。

配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用又は収益を認めることを内容とする法定の権利を新設し、遺産分割における選択肢の一つとして、配偶者に配偶者居住権を取得させることができることとするほか、被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができることにすることとしました。配偶者居住権が認められる場合は、その効力は対象建物の全体に及びます。例えば、配偶者が従前居住していた建物のうち、一部は居住の用に供し、他の部分は店舗や賃貸物件など収益の用に供していた場合、配偶者は、その建物のうち、居住の用に供している部分のみならず、店舗や賃貸物件といった収益の用に供している部分まで使用及び収益することが認められることになります(この場合、一般的には、賃借人は、賃貸人たる地位を承継した居住建物の所有者に対して賃料を支払うこととなります。)。

ただし、建物の使用については、従前居住の用に供していた部分を収益の用に供してはならない(収益の用に供していた部分については新たに居住の用に供することは可)、という制限はあります。また、居住建物を第三者に使用収益させるときは、所有者の承諾が必要となる制限もあります。

配偶者が配偶者居住権を取得するためには、①被相続人の配偶者が被相続人の建物に相続開始の時に居住していたこと、②遺産分割又は遺贈等によって配偶者居住権を取得することの2つの要件を満たす必要があります。

しかし、被相続人が相続開始の時に、居住建物を「配偶者以外の者」(例えば、被相続人の子の一人)と共有していた場合には、配偶者居住権の成立を認めると、被相続人の死亡により他の共有持分権者の利益が不当に害されることになること等を考慮し、配偶者居住権の成立を認めないこととされています。

共有関係 配偶者居住権の取得の可否
1 被相続人(父)の単有 最も多く想定される事例で、配偶者居住権を取得できる。
2 父と母の共有 配偶者居住権の成立を認めたとしても、不利益を受ける者はいないことから、配偶者居住権を取得できる。
3 父と子の共有 不可 母が居住を継続するためには、父の持分(所有権)の一部又は全部を取得する、又は他の共有者と賃貸借、使用貸借等の契約をする等の方法が考えられる。
4 父、母、及び子との共有 母が共有者であるため、直ちに退去する必要はないものの、母が居住を継続するためには、他の共有者と賃貸借又は使用貸借等の契約をしておく必要がある。

被相続人(父)が単有の場合(①)には、「遺産分割又は遺贈等」によって配偶者居住権を取得することが要件となります。

共有関係において、母が持分を有している場合(②又は④)には、共有持分に基づいて居住建物を使用することができますが、他の共有者からその使用利益について不当利得返還請求、又は、共有物の分割請求により配偶者が居住を継続することができなくなるおそれがあります。そのため、②の場合には、母は配偶者居住権を取得するようにします。

また、父と子の共有の場合(③)には、父から母が相続等によって持分の一部又は全部を取得できない場合には、母は居住建物の所有者と賃貸借又は使用貸借等の契約をする等の方法によって居住を継続することができます。

(3)配偶者居住権に係る相続対策

① 配偶者居住権と居住用不動産(負担付所有権)に分離して相続させることができる

配偶者居住権等は他に譲渡することができない又は相続によって消滅することから、再婚した妻へ配偶者居住権を相続させ、先妻の子へは居住用不動産(負担付所有権)をそれぞれ相続させると、配偶者の死亡により先妻の子が完全所有権として承継することができます。例えば、後妻との間に子のいない夫は、後妻に居住用不動産を残したいが、後妻の死亡後は、後妻の親や兄弟、又は後妻が再婚するかもしれない将来の夫に相続させるよりも、自分と先妻との間の子に承継させたいと望むケースなどでは、「後継ぎ遺贈型受益者連続信託(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託)」を活用する方法がベストです。信託以外の方法では、夫が遺言書によって妻へ居住用不動産を相続させる旨の遺言は有効ですが、妻が死亡した後に、夫の子に居住用不動産を相続させる旨の遺言は無効と考えられています。そこで、居住用不動産を子へ相続させる方法として、妻と子が養子縁組を行い相続する方法や、妻が遺言書を残し夫の子に遺贈する方法も考えられます。しかし、養子縁組は当事者の合意によって、又は調停や裁判によって離縁することができ、遺言書は妻が単独に新たに書き換えることも可能ですので、確実な方法とはいえません。

以上のことから、信託、養子縁組又は遺言書によらない方法として、配偶者居住権等を配偶者に相続させ、負担付き所有権は夫の子へ相続させることで、妻は夫の死亡後においても居住用不動産に住み続けることができ、夫の子は将来その居住用不動産を確実に完全所有権として承継することができます。

② 配偶者居住権の設定登記

配偶者居住権は登記を備えるまでは第三者に対抗することができないため、配偶者居住権よりも前に、居住建物が債権者による差押えをされてしまった場合には、配偶者は配偶者居住権を債権者に対抗することができなくなります。そのことから、配偶者居住権は登記請求権があるため登記される事例が多くなると思われます。その場合、居住建物の価額(固定資産税評価額)に対し0.2%の税率により登録免許税が課され、相続による移転登記(登録免許税は0.4%の税率)と比較すると軽減された税率になります。なお、配偶者居住権が登記された場合、担保権者と配偶者居住権を取得した生存配偶者との間でどちらが優先するかは対抗問題(登記の先後)で解決することになると思われます。そのため、担保権者としては先に登記を備えておくことがより重要になりますが、仮に登記で勝てたとしても、いずれにせよ、生存配偶者との交渉は避けられないと思われます。

③ 配偶者が「遺贈」によって取得すること

相続人に対して財産を相続させようと考える場合に、遺言書には「相続させる」と記載するのが基本です。しかし、配偶者居住権については、「配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき」に取得すると規定されています。そのため、遺言書には配偶者に「遺贈する」と記載することについても留意しておかなければなりません。これは、相続させる旨の遺言の場合、配偶者が配偶者居住権の取得を希望しないときにも、配偶者居住権の取得のみを拒絶することができずに、相続放棄をするほかないこととなり、かえって配偶者の利益を害するおそれがあること等を考慮したものです。

(相続させる旨の遺言により、遺産の全部を対象として各遺産の帰属が決められ、その中で、「配偶者に配偶者居住権を相続させる」旨が記載されていた場合でも、配偶者居住権に関する部分については、遺贈の趣旨であると解するのが遺言者の合理的意思に合致するものと考えられます。)

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