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トップメッセージ

代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 仲井 嘉浩 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 仲井 嘉浩

ワクワクする、確かな手応え

 2018年、「イノベーション&コミュニケーション」を社内改革の合言葉に掲げました。それから5年。嬉しいことに、ワクワクするような提案を目にすることが確実に増えています。

 私自身の経験から、イノベーションの芽となるアイデアは、日々お客様の幸せを考えアンテナを張り巡らせている従業員が持っていると確信しています。そうしたイノベーションの芽を育むには、率先してコミュニケーションを実践する上司や仲間の存在が欠かせません。自律した従業員が、それぞれの感性や個性を発揮しアイデアを出し合える組織にしたい。そう考え、合言葉としました。

 「イノベーション&コミュニケーション」については、この5年間、さまざまな場面で私自身の言葉で伝えてきました。従業員にもその意識がしっかりと浸透しているという確かな手応えを感じると同時に、これからの積水ハウスグループに大いに期待をしています。

積水ハウスグループらしさを再定義

 積水ハウスグループのあらゆる事業活動の根底には、相手の幸せを願う企業理念の根本哲学「人間愛」が息づいています。この企業理念のもと、2020年に、“「わが家」を世界一幸せな場所にする”というグローバルビジョンを掲げ、新たなフェーズがスタートしました。その実現を確かなものとするため、この度、「SEKISUI HOUSE_SHIP」を制定しました。

SEKISUI HOUSE_SHIP

 ここで、「SEKISUI HOUSE_SHIP」に対する私の考えをお話しします。グローバルビジョンには、幸せをつくるグループでありたい、という想いが込められています。これは、成熟社会や高齢化社会の先に訪れる世界の本当の幸せを考え、新しい時代の、新しい価値を創造することを意味します。

 そのためには、まず、積水ハウスグループが変わらなければいけない。企業理念はしっかりと守りつつ、さらなる価値を創造するための道標が今こそ必要であると考えました。そこで、積水ハウスグループらしさを再定義し、「SEKISUI HOUSE_SHIP」と名付けました。

 「SEKISUI HOUSE_SHIP」には、こういう人の集団でありたい、という想いが込められています。高度経済成長期は、会社の指示や周りに合わせる方が、着実に成長を遂げられたのかもしれません。しかし、これからの変化の時代においては、従業員がそれぞれの立場でさらに自律し、自分なりの感覚や審美眼をもってアイデアを出し合うことがますます重要になると考えています。

 新たな価値を創造していく積水ハウスグループの主体となるのは、すべての従業員です。「SEKISUI HOUSE_SHIP」を通じてベクトルを合わせ、唯一無二の価値を創造してまいります。

普遍的な価値観に基づく、果たすべき使命

 地震などの自然災害が多く、四季による年間の気候変化が著しい日本において、住宅不足を解消し、人々の命と財産を守るために創業した当社は、60年以上にわたり住まいの研究を続けてきました。

 国内の住宅不足は解消した一方で、戸建住宅約2,920万戸のうち、現行の耐震基準を満たさない住宅が約500万戸あります。さらに現行の省エネルギー基準を満たさない住宅は89%もあります。国内の新築住宅市場は、人口減少などにより縮小傾向にあると考えられていますが、これらの状況を考えると、創業の使命は達成されていません。

 私は、住宅を重要な社会資本の一つと捉えています。だからこそ、適切な維持や管理ができるのは当然のこと、長期にわたり高い価値を持つとともに、美しくなければならないと考えています。

 創業の使命を果たすため、優先的に取り組むべきことは何かと考えた際、長年培ってきた独自の技術と高精度な施工力を最大限活用することだと認識しました。そこで、2023年9月、当社オリジナル耐震技術をオープン化し、積水ハウス建設およびパートナー企業とともに木造住宅の耐震性能を強化する業界初の共同建築事業「SI事業」を開始しました。2024年4月までに5社とパートナーシップを締結し、良質な住宅ストックの形成に向けた取組みを加速しています。

 当社グループは、良質な住宅ストックの形成に加え、持続可能な社会の実現とダイバーシティ&インクルージョンを果たすべき使命として位置づけています。持続可能な未来へ向けたこれらのマテリアリティは、一過性のものではなく、普遍的な価値観に基づき50年、100年かけて達成しなければならないものだと考えています。

創業から受け継がれる「人間愛」

 では、当社グループにとっての普遍的な価値観や存在意義とは何でしょうか。それは、企業理念であると考えています。企業理念は「人間愛」である「相手の幸せを願い、その喜びを我が喜びとする奉仕の心を以って何事も誠実に実践する」を根本哲学としています。経営者としてビジョンや戦略を考える際、ガバナンスを強化する際など、私にとっても企業理念は重要な意思決定の判断軸となっています。

 近年、「なぜお客様ファーストをそこまで徹底するのですか」というご質問をいただくことが増えてきました。私たちのDNAとして当然のことですが、今一度、私なりの考えをお伝えしたいと思います。  先述した通り、積水ハウスは、人々の命と財産を守る強い使命感のもと誕生した会社です。そのため、お客様の幸せを願う「人間愛」の精神が脈々と受け継がれてきたのだと思います。「人間愛」が受け継がれてきた背景には、供給する戸建住宅の98%が注文住宅というビジネスモデルにあると考えています。創業以来、邸別自由設計を提供し、一生涯お客様に寄り添い続ける姿勢を貫いてきたからこそ、自ずとお客様ファーストのDNAが根付いていると確信しています。

 お客様の幸せを願う心は、不幸にして自然災害が発生した際、お客様の安否を真っ先に考え、会社の指示がなくても自発的に行動する従業員や当社の最高の品質を支えていただいている協力工事店組織「積水ハウス会」の職人の方々の姿勢にも表れています。

 長い歩みの中で受け継がれてきたこの普遍的な価値観や存在意義は、これからも見失うことなく継承していく所存です。

住まいから創造する、新たな価値

 積水ハウスグループの歩みは、3つのフェーズに分けることができます。

 1960年から1990年の第1フェーズでは、住宅の耐震性や耐久性、防耐火性や耐衝撃性などの研究を重ね、住まいの安全・安心という価値を提供してきました。

 そのうえで、1990年から2020年の第2フェーズでは、断熱性やお子様からご年配の方々に配慮したユニバーサルデザインなどの研究を重ね、住まいの快適性・環境配慮という価値を提供してきました。

 そして、2020年からの第3フェーズでは、“「わが家」を世界一幸せな場所にする”というグローバルビジョンのもと、幸せという新たな価値を提供するための研究開発を続けています。100 年という長い人生を生きる人々の「幸せ」を考察し、「健康・つながり・学び」の3つに因数分解しました。例えば、家が人の健康状態を管理したり、祖父母の家や病院、美術館などとつながるようになる。さらには、家の中で体験や学び直しをすることができる。非常にハードルの高い取組みですが、安全・安心という住まい(ハード)の上に、快適性・環境配慮という住まい方提案(ソフト)を提供してきた積み重ねがあるからこそ挑戦できることです。新たなサービスや思想を、第3フェーズ中に段階的にインストールしていくことを目指しています。

堅調に推移する、第6次中期経営計画

  国内の“ 安定成長”と海外の“ 積極的成長”を基本方針とする第6次中期経営計画(2023年度~2025年度)が始動して1年。初年度は、計画を上回る業績で堅調に推移しており、「世の中に新しい価値を提供できている」。これが今の私の率直な感想です。

 国内の戸建住宅に関しては、お客様の“ 感性”を住まいに映し出す新デザインシステム「life knit design」を開始し、全国展開を進めています。賃貸住宅では「シャーメゾンZEH」の普及に注力し、受注に占めるZEH 住戸の割合は年度目標の70%を上回りました。デジタル技術を活用した「賃貸住宅DX」でもオンライン入居申し込みは100%となり、「無人内覧」も増加することで、入居者様の利便性の向上を実現しています。

 米国の戸建住宅事業においては、米国のホームビルダー、M.D.C. Holdings, Inc.(MDC社)の買収を2024年4月に完了しました。これにより、第6次中期経営計画最終年度である2025年度までに海外市場で1万戸、国内と同規模の戸建住宅を供給する目標を前倒しで達成する見込みです。

 2017年に米国戸建事業に参入した当社の国際事業におけるM&A戦略の最大の目的は、積水ハウステクノロジーを海外に移植し、世界のデファクトスタンダードにすることです。そのため、MDC社を迎え入れるにあたり、住宅建設に対する考え方や良質な住宅ストックの供給に対する志の共有を重視しました。

 米国の戸建住宅市場は、住宅ローン金利の高止まりや住宅建設コストの増加などにより、慢性的な住宅の供給不足に陥っています。また、米国を含む世界各国でも高品質な住宅への需要が高まっています。

 耐久性や快適性の高い住宅を提供し、世界、そして未来の住まいのあり方を革新していくことは、住まいづくりのパイオニアとしての私たちの使命でもあります。近い将来、積水ハウステクノロジーが世界の住宅業界に新たな標準を確立する時代がやってくるという確信のもと技術の移植を進め、MDC社が50年以上にわたり構築してきた強固なガバナンス体制やプラットフォームを軸に、積極的な事業展開を進めていきます。

新市場で拓く、新たな価値

  MDC社を積水ハウスグループに迎え入れたことにより、米国での事業エリアは8州から16州に拡大しました。米国は、州により建築基準法やニーズ、気候が大きく異なります。16通りの課題に直面することを意味しますが、これこそが当社グループにとって大きなチャンスです。

 私は、米国市場での展開にあたり、「planned happenstance」という考え方も重要と考えています。直訳すると「意図された偶然」。積水ハウスグループが培ってきた最高の技術を移植することにより、米国市場にどのような価値が創造されるのか、私もまだ想像がついていません。しかし、どの技術を搭載するかを見極めるマーケティングはまさに心躍る挑戦であり、新たな可能性を見出すことに一層の期待と興奮を感じています。

 振り返ってみると、私のキャリアも「意図された偶然」の連続でした。ある計画に沿って進む一方で、予期せぬ出会いや出来事が転機となり、成長の機会を与えてくれました。ただの偶然に見えることでも、実は無意識にアンテナを張っていたからこそ、その方向に進む傾向が生まれていたのかもしれません。

 やや楽観的ではと受け取られるかもしれません。もちろん、綿密な計画に基づいて準備をすることは企業経営において当然のことです。同時に、少しの余裕を持ち、偶然という形で舞い込んでくるチャンスを見逃さず、確実なものとしていきたいと考えています。

新たな価値を創造する、ESG経営

 昨年度の「Value Report」では、ESG経営のリーディングカンパニーを目指す当社グループの使命と長年取り組みを重ねてきたネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)および「5本の樹」計画についてお話ししました。2023年度、当社は、企業の環境分野におけるサステナビリティの評価を行うCDPにより、気候変動、フォレスト、および水セキュリティ分野の透明性とパフォーマンスにおけるリーダーシップが認められ、すべての項目においてAリスト企業に選定されました。国内住宅・建設業界で初めてのトリプルAへの選定であり、お客様とともに理解を深めながら活動を続けてきた成果だと考えています。

 今年度は「女性活躍推進」についてお話ししたいと思います。私は当社グループの女性従業員に強い自信と誇りを持っています。2006年に女性活躍推進グループを設置し、女性営業職の積極採用を開始し、20年にわたり、経営戦略として女性の活躍を推進してきました。2024年1月末、当社グループの女性従業員比率は29.4%と、最新の建設業界平均の女性従業員比率の15.3%と比較すると、約2倍の女性従業員が活躍しています。

 この道のりは、決して平坦ではありませんでした。当初は離職者も多く、働きにくい職場環境、長時間勤務、上司の理解不足など、定着を阻むさまざまな課題が浮上しました。それらの要因を洗い出し、従業員の意見を取り入れながら、職場環境の改善や制度の整備を進めてきました。その結果、性別などにかかわらず、誰もが働きやすい職場環境や制度改革につながっています。

 私も毎年、女性営業職の表彰式や交流会などに参加し直接対話をしていますが、2006年以降に入社した女性従業員も管理職として活躍している姿を頼もしく感じています。一般的に女性の管理職志向が低下しているともいわれていますが、当社の女性管理職候補者研修へは、全員が自ら参加を希望しており、自律した女性が育ってきているのも嬉しいことです。また、2023年度の「幸せ度調査」の結果によると、女性管理職および女性管理職のいる部署の幸せ度が高い傾向にあることがわかりました。

 昨今、企業における女性役員や女性管理職比率が重要視される傾向にありますが、やみくもに数を追うのではなく、本人の意思を尊重し、キャリア自律を支援しながら、自然な形で女性従業員比率や管理職比率の向上を実現したいと考えています。

仲間とともに、創造する価値

 当社グループの人財価値の基本的な考えは「従業員の自律xベクトルの一致」です。これは、一人ひとりの自律度が高まり、それが組織の目指す方向性と合致すれば、最高の人財価値を生み、組織として成長することができるという考えに基づいています。

 「自律」の定義について度々ご質問をいただくのですが、私の考えはとてもシンプルです。自律とは、やりたいことを自分で決めること。そして、その決断に責任を持つこと。キャリアに限らず、家族と過ごしたいから長期休暇を取得する、介護をするから時短勤務にする、どれも素晴らしい自律であり、そのための制度や環境を整備することに尽力しています。また、自律を望む従業員には惜しみない支援を提供することも従業員に約束しています。

 当社グループが大切にしている「感性」についてもさまざまな定義がありますが、美しさや心地よいと感じるものを自分なりの感覚で捉えること、そして、感性を育むには、心が動くようなものにできるだけ触れたり見たりすることが良いのではないかと、私なりに解釈しています。AI技術が進化する時代だからこそ、心が動く瞬間を大切にしていきたいと考えています。

 2024年4月1日、当社グループは950人の「新入社員歓迎会」を実施しました。入社式という言葉には儀礼的な印象がありますが、新たな仲間を心から歓迎する意味で、歓迎会と呼んでいます。また、グループにも国内外から志や情熱を共有する仲間を迎え入れました。

 これまでも日本から現場監督や職人の方々を豪州へ派遣し、技術を移植してきましたが、米国でも同様の取り組みを進めていきます。仲間同士の交流の機会を通じて、さらなるイノベーション&コミュニケーションが生まれることを期待しています。

世界でここにしかない価値を、皆さまと共有したい

 グループとしての歩みを進めていく中で、あらためて気づかされたことがあります。それは、お客様の幸せを一心に願い、愚直に住まいの研究を続けてきた当社グループには、世界でも類い稀な技術やノウハウがたくさん蓄積されているということです。

 先述した「積水ハウス会」には、当社の住宅建設を専従で受け持つ大工職の方々が約5,000人いらっしゃいます。運命協同体として、長年にわたる強い絆と信頼関係で結ばれ、厳格な施工基準と品質検査をクリアする世界でも非常にレベルの高い技と心を併せ持つプロフェッショナルです。その最高峰の技術を競う「積水ハウス大工選手権大会WAZA 2023」を2023年11月に実施しました。お客様の幸せづくりの要を担う方々にあらためて感謝と敬意を表するとともに、職人の方々の年収の最大化についても実現していきたいと考えています。

 これらの技術力、施工力、顧客基盤というコアコンピタンスに加え、いかなる時もお客様ファーストを貫く姿勢から生まれたさまざまな思想や文化は、60年という長い年月をかけて築きあげてきた、世界でここにしかない価値です。

 2022年に「Value Report」の発行を開始し、今年で3年目となります。本レポートは、数字や業績の報告だけでなく、当社グループの価値をより明確にお伝えし、ステークホルダーの皆さまとのつながりを深める大切なツールです。

 これまで積み重ねてきた多くの挑戦や成功、失敗は、当社グループの重要な財産であり、このような歩みの中で生まれる世界でここにしかない価値をストーリーとして積極的に開示することで、皆さまとともにより幸せな未来をデザインしていきたいと考えています。

 日本は世界でもいち早く成熟社会および超高齢化社会へシフトしています。ここにしかない価値を最大限活用し、幸せな未来の実現に向けベクトルを合わせて取り組んでまいります。

 これからも、イノベーション& コミュニケーションを通じて唯一無二の価値を創造し続ける積水ハウスグループの挑戦にご期待ください。

代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 仲井 嘉浩