イクボス座談会

メンバーの多様な働き方を考慮し
幸せな職場にしていくために必要なこととは?

2018年9月から運用を開始した特別育児休業制度。現在、対象者となる男性従業員全員が1カ月以上の育休を取得していますが、取得率100%の達成・維持には、取得者本人の意思や事前準備はもちろん、職場での理解やサポートが欠かせません。特に上司(ボス)のマネジメント力は、重要なカギとなります。そこで、全国から4人のイクボスを参集し、部下の育休取得にあたって感じたことや配慮、チームとしての協力体制などについて語り合ってもらいました。


◆イクボスとは…

部下が育児と仕事を両立できるよう配慮し、育休取得や短時間勤務などを行っても業務を滞りなく進めるために業務効率を上げ、自らも仕事と生活を充実させている管理職。

〈参加者〉

京葉支店 技術次長


吉田 高士

1999年 入社

東京北支店 王子店 店長

黒木 史子

2004年 入社

徳山営業所
ハウジングプラザ岩国店 統括店長
井手 泰博
2006年 入社

デザイン設計部 エクステリア
デザイングループ 課長
林 仁
2000年 入社

※ 所属部署・役職は2021年9月取材時点

―― 男性従業員の育休取得を推進する「特別育児休業(以下、「男性の育休」と表記)制度」ができたとき、どのように感じましたか。

吉田 運用スタート時、子が3歳の誕生日の前日までという取得期限が目の前に迫っているメンバーがいたので、急いでスケジュールを考えるのが少し大変でした。ただ以前から、誰もが一週間程度の休みをまとめて取れるチームにしていこう、との目標を掲げ実践していたので、私を含め、チームとしての戸惑いや不安はなかったですね。


黒木 運用開始と同時に、同じ支店の男性店長が1カ月まとめて育休を取得したんです。お客様にその話をすると、「素晴らしい制度」「いい会社ね」といったお言葉をいただき、会話も広がりました。お客様から高い評価をいただけたことがすごくうれしく、印象的でした。


 最初に聞いたときは、自分の子どもが小さいときにも、この制度があったらよかったなと、正直うらやましく感じましたね。子育てにしっかり向き合える時間が持てるというのは、子どものためにも、自分自身の成長のためにもいいことだと考えていたので。


井手 私は営業所内で、男性で初めて育休を取ったんです。1カ月まとめて休むことにしたので、支店長とも相談しスケジュールを立てました。とはいえ、店長である私が育休を取ったらチームの業務が滞るのではないかとの不安はぬぐえず、お客様とはコンタクトを取れる状態にはしていました。結局、店のメンバーがしっかりフォローしてくれて、私に連絡が来るようなことはありませんでした。


吉田 最初に育休を取得した部下の家が近所で。直接顔を合わせることはなかったのですが、妻同士も親しくしており、とても喜んでいたということはよく耳にしていました。


井手 育休を取得するまでの私は仕事優先で、妻からは子育てに非協力的だと言われていました(笑)。その意味でも、この機会に子育てに関わらなければと、前向きに捉えました。

―― 男性の育休取得をきっかけに、職場でのコミュニケーションや協力体制、ご自身のマネジメント意識などに変化は生まれましたか。

黒木 私がまず徹底したのは、育休中、本人への連絡は一切取らないということ。その分、取得前の計画段階で業務の見える化、振り分けをしっかりしておかないといけません。その点からも、職場全体で今まで以上にコミュニケーションを取るようになりました。

(吉田)技術次長に就任したときの様子

吉田 現場監督の役割として、検査や地鎮祭、引き渡しなど、さまざまな場面で現場立ち会いが求められます。そのため、その現場担当者が行けない場合は、他の誰かが代わりに行けるようにしていました。男性の育休制度をきっかけに、業務の振り分けについて建築課全体で考え、効率的に進めていこうという体制ができてきたと感じます。


 本社開発部門はキャリアの長い女性が多いので、産休・育休で1年、1年半と現場を離れるケースはよくあること。そのため、男性の育休に対しても特に意識することなく、部全体で業務の振り分けやスケジュールの調整など、うまくコントロールできていると思います。


黒木 一つの物件に対し複数の人間が関わる組織営業を行う支店も増えてきました。私の支店でも広く情報共有ができ、どのメンバーでも対応できる状況になっているので、男性の育休制度も活用しやすいようです。


井手 私の所属する営業所でも、個々で協力し合える職場風土ができていたので、うまく推進できていると感じます。やはり、育休前の打ち合わせをしっかり行うことが重要で、営業だけでなく、設計や現場監督、総務も巻き込んで、業務の振り分けやお客様のフォロー体制を築くようにしています。

―― 育休から復帰した男性従業員の仕事ぶりや意識の変化、成長を感じる点などはありますか。

吉田 これまで以上に仕事の段取りをつけられるようになった、とよく話していますね。子育てや家事の体験談などでお客様との会話も弾み、よりスムーズに仕事が進められるようになったとも。


井手 私も同じです。次男誕生の時に2度目の育休を取得したのですが、「オムツ交換をできるようになる」という目標を掲げ、コツコツ頑張った努力が実り、今も毎朝のオムツ交換は私がしています。ささやかなことですが、この経験は仕事にも生かせていて、お客様との会話にもつながりますし、お子様の様子からオムツ交換のタイミングかなと気づけるようにもなりました。


 育休を終えてからも、育児に主体的に関われるようになっていると感じますね。例えば、保育園の送り迎えをしたり、子どもが急に熱を出したからと就業時間を繰り上げて帰ったり、家に帰ってから在宅で仕事をしたりと、家庭や育児も大切にしながらフレキシブルに働いてくれているという印象です。

(黒木)長男の小学校卒業式にて。息子の将来の夢は積水ハウスで働くこと

黒木 昔のお父さんは、子どもが生まれても基本的には自分の働き方は変えないというスタンスの方が多かったと思いますが、最近の若いお父さんたちは子育てや家庭の問題を「自分事」として捉えている人が多いですね。私も子育てをしながら働いていますが、仕事との両立に悩むことは多々あり、これは女性特有のものなのかなとずっと思っていました。でも今は、メンタル的な部分で家庭の心配事や不安などを抱えながら仕事をしている男性も増えてきたなと感じます。


 保育園の先生や保護者とのつながりが生まれ、子育てに対する意識が強くなってきたのでしょう。子育ては、これからも長く続いていくもの。夫婦で共に考え、力を合わせて行っていくべきものなのだと、育休をきっかけにあらためて気づけるのだと思いますよ。


井手 以前は、産休・育休から職場復帰する際に不安を抱く女性メンバーの気持ちがよく分かっていませんでした。自分も同じ立場になったことで、初めてその気持ちが理解できました。同じ気持ちが持てると、お互いへの理解が深まる。それが、より良い職場づくりにもつながっていくんですね。

―― 男性の育休が、職場や周囲のメンバーにもたらす変化など、何か実感されることはありますか。

吉田 この制度が始まった頃は、「いい制度だと思うけど、本当に休めるのかな」といった疑問の声はありました。3年経った今は、誰かが育休を取っていても驚かないし、むしろ誰かが育休中なのが当たり前になっているようです。


井手 私の営業所でも多くの男性が育休を取得。1週間前後×4回と分割で取得するケースが多いので、旅行で1週間休むメンバーをサポートする感覚で、特に育休を意識することもなく、サポートし合えています。


黒木 同じ支店の男性店長が1カ月まとめて育休を取ったとき、その店のメンバーたちがすごく張り切って、「自分たちが頑張らなければ!」とメンバー一人ひとりの意欲が高まり、その月の成績がとても良かったんです。サポートする側の成長にもつながる制度だと思います。


 小さな子どもを持つ男性同士で、子どもの話をしている様子をよく目にするようになりました。予防接種とか保育園の話題とか、育児全般に関する基礎知識が上がっているように感じます。きっと、自分が体験し苦労することで、育児を「自分事」として捉えられるようになり、仲間と気持ちを分かち合いたくなるんでしょうね。


黒木 気持ちを共有できる仲間が増えてきたことで、今後、また多様な議論ができるのではないかと考えています。これは、組織全体としてもすごく大きな変化なのではないでしょうか。


吉田 現場監督は、先輩と若手がペアで一つの現場を担当することが多いのですが、重要な検査の場合は、複数の現場監督で立ち会うようなってきました。これは、男性育休制度が始まってから。業務に関する具体的な変化も生まれています。

―― 育児者に限らず、職場の仲間が仕事もプライベートも充実させ、幸せな職場をつくっていくために、管理職としてどのようなことが重要だと考えますか。

吉田 日々限られた時間の中で、いかに業務を効率化していくか、ワーク・ライフ・バランスを取れるようにしていくか、ということをマネージャーが常に考えながら進めていかなければならないと痛感しています。それは課を超えて取り組まなければならないこと。そういう組織運営を続けていけたら、幸せな職場になっていくのではないかと思っています。


黒木 やはり、普段から大切にすべきことはコミュニケーションでしょう。何でも聞き出せばいいわけではなく、その日その日の様子や顔色などにも気を配りながら、相手の背景を想像すること。小さなサインを見逃さず、声を掛けたり、相談に乗ったりしながら、信頼関係を築いていけたらと考えています。


 私が意識しているのは、自分自身がプライベートも大切にしている姿を率先して見せることです。普段から定時に帰るようにしたり、時間休を活用しながら子どもの学校行事に参加したりしていると、「それが当たり前なんだ」という雰囲気が生まれてくる。「今日は三者面談で大変なんだよ」と言いながらも、「この人、何だか楽しそうだな」と感じてもらえれば、職場の雰囲気も変わってくるのではと思っています。

(井手)2人の息子と果物狩りへ。息子たちの成長を実感

井手 私自身、高いモチベーションを持って仕事に取り組んでいますが、それができるのもプライベートが充実しているから。その点をしっかり発信し、各メンバーともコミュニケーションを取っていくことが重要です。営業所として、「週に1回ノー残業の日をつくれるような働き方をしよう」という取り組みを始めたので、メンバー一人ひとりの、そしてチーム全体としての業務やスケジュールを把握しながら、効果を出していきたいと考えています。

―― 男性が育児休業を取得しやすくなるよう法改正が行われるなど、世の中の動きも変わり始めました。こうした変化に対して、何か思いはありますか。

 当社では男性の育休制度を機に、取得率も、職場の雰囲気も大きく変わってきました。世の中も男性の育休取得が促進されれば、当社と同様に変わっていくのではないかと期待しています。


井手 男性の育休は義務ではなく権利として根付いていて、取得しやすい雰囲気もできています。育休を経験していない上司も多い中、年次の若い男性がきちんと取得できているのは、育休に対する考えが浸透しているからなのでしょう。


黒木 これまで仕事をしてきて感じるのは、女性は家に居て子育てをするもの、という固定観念が根強いということ。私自身、周囲の理解のなさや悪気のない心無い言葉に嫌な思いをしたこともありました。そういう固定観念がなくなっていけば、もっと女性が気持ちをラクに働けるようになるのではないかと思っています。そのためにも、半強制的にでも男性の育休制度を浸透させ、「あたりまえ」にしていくことは大事なことですね。


 育休を取らなければ、男性は子育てができないわけではありません。制度で、法律でというのではなく、レギュラーワークとして男性も子育てに参画するのが本来あるべき理想の姿のはず。男性の育休制度がなくても、誰もが仕事と育児を両立でき、プライベートも充実させることができるような職場づくりにつなげていかなければいけないですね。


吉田 積水ハウスとしても、新たなステップに進むべき段階ということでしょうか。世の中に先駆けて、さまざまな取り組みを進めている当社だからこそ、次の動きは気になります。


井手 男性の育休制度に対するお客様からの評価は高く、その点でも誇りに感じます。育休取得者としてのアドバイスや経験も、これからどんどん発信していきたいです。

―― これから育休を取得する部下を持つ管理職へ、また育休の取得を考えている男性従業員へメッセージをお願いします。

吉田 コミュニケーションも深まり、結束力も高まります。チームとしてもいい方向に働く制度なので、前向きに捉え推進していくべきです。育休から復帰したメンバーの体験談を聞くのはとてもうれしいことですし、わが家では育休を話題に妻との会話も増えましたね(笑)。


黒木 メンバーとのコミュニケーションを密にするチャンス。その時々、メンバーの状況によっても、ベストな仕事の仕方は変わります。それを一緒に考えていくことで、上司自身も臨機応変さを身につけることができ、成長につなげられると感じています。

(林)少年野球をしていた息子と。レクリエー ション親子野球のときの1ショット

 男性の育休制度は、自分の仕事やライフスタイルを見直す上でも、いいきっかけを与えてくれるはずです。仕事の仕方を変えたり、子どもとの時間を増やせるようになったり、子どもを通して地域との関わりが持てるようになるなど、クオリティオブライフを高めていく制度だと思います。3年余りでここまで定着してきたのは、取得する側だけでなく、受け容れる側もハッピーになれているからでしょう。これから入ってくる社員のためにも、この制度が維持できるよう皆で頑張っていきましょう。


井手 大切なのは、相互理解。「繁忙期に休みたい」、「1カ月まとめて休む」と一方的に言われても、理解しづらい部分はあるかもしれませんね。もちろん、取得する側にも一定のマナーは必要ですが、できるだけ寛容に受け止め、周りもサポートしていける体制を整えるよう努める必要があると思います。


吉田 運用から3年経ったからかもしれませんが、男性の育休取得に対してネガティブに捉える上司は少ない。むしろ、業務の見える化やシェアについて具体的に考える機会にもなるので、前向きな気持ちで育休を取得してほしいですね。そして、育休中にどんな経験をしたか、どんな気づきがあったかなど、お土産話をたくさん聞かせてほしい。コミュニケーションが深まれば、もっともっと楽しい職場になると思います。


黒木 子どもが小さい頃、夫から「何を手伝ったらいい?」と聞かれ、ケンカになったこともありました。妻を手伝うのではなく、主体的に動くことが重要なポイント。自分事として子育てをするようになれば、悩みや葛藤もいろいろ生まれてくると思いますが、その経験は必ず自分のプラスになります。ぜひ主導権を持って育休を過ごし、これからの子育てを楽しんでいけるようになってください。


井手 まさに私も、同じことを妻から言われたことがあります(笑)。ただ育休を取ればいいのではなく、何をするか、どう活用するかが重要なんですよね。何か一つでも、目的を持って取り組むことをおすすめします。


 子育てをする上で、住宅はとても重要な場所です。その住宅づくりのプロである私たちにとって、子育ては基本スキルの一つなのではないでしょうか。育休は、まさにその経験ができる貴重な機会。この機会を次に生かしながら、住宅のプロとしてのスキルをどんどん伸ばしていってほしいと思います。