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代表取締役 社長執行役員 兼 CEO

仲井 嘉浩

「国内の“安定成長”と海外の“積極的成長”」を推進し、
世界中に「幸せ」という付加価値の提供を目指す

グローバルビジョンに対する想い

100年という長い人生を心豊かに暮らすため、住まい手の「幸せ」づくりを支える

 当社は1960年の創業以来、常に時代に先行し、先進的な技術で課題を解決しながら、ハード面の圧倒的な強みを蓄積してきました。

 30年を一つの区切りとして、1990年までの第1フェーズでは、お客様の命や財産を守る「安全・安心」な住まいの提供を最優先しました。続く2020年までの第2フェーズでは、住まい手にとって快適さと環境配慮を追求する住宅の提案を行うことにより、新たな価値の創出を行ってきました。

 そして、次の30年、つまり2050年に向けての新たな価値は、いかにあるべきか。キーワードは「幸せ」です。私たちは、第1フェーズと第2フェーズで築いた時代をリードする耐震技術、断熱・省エネルギー技術の上に、「 幸せ 」という付加価値を創出することとし、2020年に“「わが家」を世界一幸せな場所にする ”というグローバルビジョンを発表しました。

 住宅は生活の基盤であり、長期にわたって使用される耐久財です。さらに、人生100年時代を心豊かに暮らすためには、健康や友人・家族とのつながり、さまざまな体験・スキルといった価値を住宅から提供し、住まい手の「幸せ」づくりを支えることが求められます。当社は2018年に「住生活研究所」を新設し、企業では日本初となる「幸せ」研究にも着手しました。その成果は、戸建住宅事業の好調な業績を牽引している、大空間リビング「ファミリー スイート」などにすでに表れています。今後も家族やライフスタイルの多様な変化に対応する「幸せ」のノウハウを、科学的・理論的に明らかにしていく考えです。 

 一方で、お客様に「幸せ」をお届けするためには、住まいづくりに携わる私たち自身と、その家族も幸せであることが欠かせません。グローバルビジョンの実現へとつなげていくために、多様な働き方や生き方を支えるさまざまな取り組みを推進しています。
 また、事業を通して社会に貢献することも企業市民としての使命です。具体的には、ESG経営のリーディングカンパニーになることを目指しています。中でも環境に配慮した商品やサービスの提供を目指す「グリーンファースト」と、子育てを応援し、感性豊かな成長を支援する「キッズ・ファースト」の2つを軸に、お客様や時代が求める新しい価値を提供します。

 グローバルビジョンを掲げてから早3年が経ちましたが、30年ビジョンのうちの3年であり、なすべきことはまだまだ多くあります。しかしながら、第3フェーズの始まりである第5次中期経営計画において、策定当初の目標を大きく上回る実績を挙げたことから、ビジョンを達成する道のりのスタートにふさわしい3年であったと考えています。

マテリアリティの特定について、

持続可能な未来に向けた重要課題は、普遍的な価値観に基づくものであるべき

 2022年には、積水ハウスが果たすべき使命を明確にするため、持続可能な未来に向けたマテリアリティの見直しを行いました。私はマテリアリティとは一過性のものではなく、普遍的な価値観に基づいて、50年、100年かけて達成しなければならないものだと考えます。1960年代、高度経済成長期の住宅の確保と、住まいの基本性能の確立に貢献した当社は、以来一心に住まいの「安全・安心」「快適性・環境配慮」を追求し、技術の進化を図ってきました。こうした私たちの取り組み自体がマテリアリティそのものであると認識し、そして人生100年時代を迎えたこれからは、住まいを通じた「幸せ」を実現するうえで、「良質な住宅ストックの形成」「持続可能な社会の実現」「ダイバーシティ&インクルージョン」という3つを、経営の重要課題に位置づけました。

国内の住宅市場は、人口減少によって縮小していくと考えられがちですが、状況を詳しく見れば、空き家を含めた日本の住宅ストック約6,200万戸のうち、戸建住宅ストックに限定すると約2,900万戸、そのうち現在の耐震基準に満たない戸建住宅が約500万戸あり、さらに断熱という点では現行の基準を満たす戸建住宅は、わずか11%という現実があります。

日本という国は、気候変動による激しい四季があり、地震大国であることを考えると、第1フェーズや第2フェーズにおける社会課題はいまだ解決の途にあると感じます。耐震性、断熱・省エネ性に優れた住宅を日本に普及させていくために、今後は地域ビルダーとパートナーシップを組んで、積水ハウスの技術を共有し良質な住宅ストックの創出を実現することを視野に入れています。

住宅のストック価値には、住まい手の感性に合った美しさも含まれます。また、循環型社会の実現が課題となっている今、カーボンニュートラルの実現に向けて、サステナブルであることも不可欠な要素です。

第5次中期経営計画を振り返って

コロナ禍の中でベクトルを一つに社会課題と向き合い、成長トレンドを維持

 第5次中期経営計画(2020年度~2022年度)は、計画を発表した直後に新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令され、初年度の売上高は2兆4,469億円、営業利益は1,865億円と目標の大幅未達で始まりました。しかし、2年目には未達分をほぼ取り戻し、売上高2兆5,895億円、営業利益2,301億円へ伸長し、最終年度の売上高は2兆9,288億円、営業利益2,614億円へと大幅に上方修正できました。これは各事業セグメントの戦略が正しかったことと、その戦略を実行してくれる従業員の努力の結果だと感謝しています。

 市場環境の変化が著しい近年は、中期経営計画の意義を疑う声もありますが、毎年のように激しい社会変動が起こる中、単年度では、計画できる範囲が限られてしまいますし、想定外の出来事にリソースを割けないといったケースもあるでしょう。反対に5~10年と長ければ予測がより困難になります。その点、3年後を見据えて策定する中期経営計画であれば、実現できることが広がり、ある程度の予測が可能です。中期的な経営計画に沿って経営を行い、変化する外部環境の影響に応じて検証・見直しを加えながら、経営資源の有効な調達・配分を見込める中期経営計画を重視しています。

 もちろん、計画の達成のためには全従業員がビジョンを共有し、各部署・各人が自ら考え、創意工夫して行動することが重要です。

 「イノベーション&コミュニケーション」を合言葉に定めたのも、事業を改革していくためには多くの従業員のアイデアが必要だからです。会社を変えるイノベーティブなアイデアを持っているのは、さまざまな事業分野で創意工夫をして取り組んでいる従業員だと確信しています。「イノベーション&コミュニケーション」を実践するためには、全員がビジョンにベクトルを合わせるとともに、現場の意見・提案をしっかり汲み上げて、戦術レベルに落とし込むことが重要です。努力する従業員を会社は惜しみなくサポートする一方、リーダーには「インテグリティ」と「グリット(やり抜く力)」、そして「人財育成力」の3つを必須条件として求めています。インテグリティを体現できる従業員を育み、リーダーとして活躍する組織をつくることで、当社はさらに、多様性にあふれた活力ある企業に進化できると確信しています。

ESG経営のリーディングカンパニーへ

 当社は、お客様と共に理解を深めながら、本業を通じたESG経営に取り組んできたことが今、大きなアドバンテージになっています。

 始まりは、「住宅1階の南面リビングの窓をペアガラス(二重ガラス)にする」などの小さな取り組みでしたが、次に窓のサッシを断熱にし、さらに家全体の断熱性を高めてCO₂排出量を30%削減する家や50%削減できる家を建てるなど、技術開発陣の努力で実現してきました。こうした先人の築いてきた実績のうえで、さらに先頭を走ることを使命と考え、「ESG経営のリーディングカンパニーを目指す」と表現しました。

 現在は、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)を、累計で約7万棟供給するまでになり、当社の戸建住宅におけるZEH比率は、2022年度(2022年4月~2023年3月)に93%にまで高まっています。このZEHを集合住宅にも広げています。賃貸住宅でZEHを体験した方は、環境貢献の意義を実感することになり、環境課題の解決にも重要だと考えています。

 また、新築の建物にその地域の在来樹種を植えて、生物多様性に貢献する「5本の樹」計画も、2001年から実施して20年以上が経過しました。これまでに全国で1,900万本以上をお客様のご協力のもと植樹し、その効果を琉球大学と共同検証した結果、住宅地に呼び込める鳥の種類が2倍に、蝶の種類が5倍になる可能性があることが判明し、生物多様性へ貢献していることが証明されました。

第6次中期経営計画策定にあたって

ニーズの多様化とテクノロジーの進化に対応

 2023年3月9日、当社は第6次中期経営計画(2023年度~2025年度)を発表しました。最終年度の2025年度には、売上高3兆6,760億円、営業利益3,180億円を目指しています。

 市場環境については、2030年までの新設住宅着工戸数は80万戸台で推移すると予測しています。先述した通り、現在も耐震性や断熱性に不十分な住宅が存在するため、建替えやリフォーム促進は今後の事業戦略の柱であり、社会的使命でもあると認識しています。また、With/Afterコロナによるライフスタイル・価値観の多様化、気候変動に伴う自然災害の激甚化などを背景に、「安全・安心」「快適性・環境配慮」を両立する高品質な住宅ニーズが高まると考えています。

 テクノロジーの進展にも対応していかなければなりません。その中心となるのは、やはりDXです。当社が60年にわたって蓄積してきた顧客情報や膨大な設計データを、新しい事業やサービスに活用することも大きなテーマです。

 DXの目標は、テクノロジーを活用して住まい手の「幸せ」をサポートすることです。住まい手のプライバシーを保ちながら、特に意識することもなく、自然体で人を見守っている住宅を目指す「プラットフォームハウス構想―HED-Net」がその最終形だと考えています。

キーワードは、「国内の “安定成長”と海外の“積極的成長”」

 「国内の “安定成長 ”と海外の “積極的成長 ”」は目新しい言葉ではありませんが、国内市場にはまだまだ成長できる余地があることを伝えるメッセージとして重視しています。政府の住宅政策とも合致しており、この方針が正しかったことは過去3年間のトラックレコードでも証明されています。

 海外ではアメリカ、オーストラリアを中心に事業を展開しています。当社は、住宅技術において耐震性、断熱性だけでなく、高耐久性や防音性能、防風性能、防火性能など、あらゆる面で最高の技術を提供していると自負しています。ただし、どの性能がその国や地域にマッチするかは検討を要します。したがって、海外市場で何が受け入れられるかを見極めるため、住宅の提供の仕方を含めた検討を行っているところです。そもそも工業化住宅のビジネスモデルは日本にしかなく、これを世界に普及させ、「積水ハウステクノロジーを世界のデファクトスタンダードに 」というビジョンの達成を目指しています。

 実際に、アメリカ最大の住宅見本市IBS(International Buildersʼ Show)において、当社の木造住宅「シャーウッド」を船便で送り、当社の最新の技術を搭載した仕様で建設しました。その評価は、海外の市場関係者から高い関心をいただくこととなりました。

 海外進出には、M&Aによる規模の拡大と当社技術の移植という2つの進め方で事業の推進をしております。第6次中期経営計画の最終年度にはグローバルな実績として1万戸を目標にしています。

ビッグデータを活用した新たなサービスの創出

 第6次中期経営計画で実現したいDXは、大きく3つあります。

 1つ目はCRM(Customer Relationship Management)です。現在、当社にはお客様との接点が大量にありますが、出会いからアフターサービスまでを一元的に管理して、より満足度の高いお客様起点での価値提供につなげるべくDXを活用しています。

 2つ目は、賃貸住宅の入居者様向けDXです。賃貸住宅への入居においては、何度も書類を書き、実店舗に足を運ばねばならず、煩雑かつ手間がかかっています。これを解決し、ワンストップでサービスを提供することが目標です。ブロックチェーンと連携したウェブサイトを活用し、入居に至るフローそのものを変革させることで、住まい全体のサービス強化につなげたいと考えています。

 3つ目は、「健康」「つながり」「学び」を軸としたサービスを提供する、プラットフォームハウス構想です。その第1弾となる間取り図連動型スマートホームサービス「PLATFORM HOUSE touch」が好評です。また、住まい手にストレスをかけない非接触型センサーを採用した在宅時急性疾患早期対応ネットワーク「HED-Net」をはじめ、住環境やライフスタイルに関わる住まいのビッグデータを活用し、新しいサービスを随時インストールすることを計画しています。

 ESG経営についても引き続き、本業を通して全従業員が参画することが重要だと考えています。当社が建てる住宅は「良質な住宅ストックの形成」につながり、循環型社会に貢献することができます。ESG経営のリーディングカンパニーであり続けるために、会社がESGに参画するのではなく、ESGの中に会社があるという意識を徹底したいと考えています。

 また、サステナブルな社会を実現するためには、環境、人財、顧客や地域住民との良好な関係構築が必要です。例えば、当社の住宅1棟は1万点以上の部材で構成されていますが、CDPフォレスト(森林に関する情報開示要請プログラム)やSBT(温室効果ガス排出削減目標)、そしてサーキュラーエコノミーなどは、サプライヤーとの協創がなければ実現できない課題です。調達先へ「SBT認定の取得」や「RE100への参加」を促し、当社のノウハウを提供して「サプライヤーの脱炭素化」をサポートする取り組みを開始しました。幸い当社には、サプライヤーと長年にわたって築き上げた強固な信頼関係があり、連携のとれた取り組みが進んでいます。

 サプライヤーとの「運命協同体」というべき絆が生まれたのは、創業から約10年目に積和建設(現 積水ハウス建設)を設立し、直接施工に切り替えたことがきっかけです。代理店や販売会社を介さず、直接お客様と家づくりをする中で、これからもサプライヤーと共に課題に取り組み、持続可能な社会づくりに向けて行動します。

人的資本経営

「イノベーション&コミュニケーション」を合言葉に人財価値の向上と社会価値の向上を図る

 人財価値の向上は、企業の成長のドライバーです。当社はその価値を「従業員の自律×ベクトルの一致」という独自の式で計ろうと考えています。従業員一人ひとりの自律度が高く、なおかつ組織のベクトルと一致すれば、最高の人財価値になります。

 キャリア自律は、従業員が積水ハウスグループという資源を利用しながら、一人ひとりが主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組むことが重要です。自律的なキャリア形成を促すために、人事制度も含めて、従業員と企業が共に持続可能な成長を実践できる環境や仕組みづくりを進めています。ベクトルを一致させる役割を担うのは「イノベーション&コミュニケーション」ができるリーダーです。会社のビジョンや戦略を伝え、波及させていくインテグリティの高いリーダーの存在が不可欠です。

 マテリアリティの一つである「ダイバーシティ&インクルージョン」のもとで、障がいの有無や年齢、性別、国籍などを問わず、誰もが自分らしく働き、その能力を最大限に発揮できる環境や制度づくりを推進するとともに、多様な働き方ができる柔軟性の高い勤務制度の導入・運用を、積極的に進めています。

 当社の根本哲学は、相手の幸せを願い、その喜びを我が喜びとする「人間愛」にあります。そして、事業ドメインを「住」に特化した成長戦略に基づき、社会に価値を提供するという社会的使命があります。「人間愛」の精神のもと、住宅メーカーとして、「幸せ」を提供する役割を果たしていくとともに、ESG経営のリーディングカンパニーを目指し、「イノベーション&コミュニケーション」を合言葉に、さまざまな場面でステークホルダーの皆様とコミュニケーションを図っていきたいと考えています。

 新型コロナウイルス感染症は社会にさまざまな影響を及ぼしました。少しずつ以前の日常が戻りつつある中、今後も感染対策には注意を払いながら、この経験を活かして事業を前進させたいと考えています。大きな成長を企図し、新たな経営計画の達成に邁進する積水ハウスにぜひご期待ください。