人と自然の共生社会 「5本の樹」計画とは

「5本の樹」計画とは、地域の在来樹種を庭づくりに生かす積水ハウス独自の生態系に配慮した庭づくり・まちづくりの提案です。2019年度の樹木の植栽実績は109万本となり、2001年の事業開始以降の植栽本数は累計1611万本となりました。「5本の樹」計画の概要と数多くの樹木が掲載された樹木図鑑「庭木セレクトブック」の発刊や、樹木やその樹木に集まる鳥や蝶についての情報をスマートフォンで入手できる「5本の樹・野鳥ケータイ図鑑」サイトの公開を通して、「5本の樹」計画の普及に努めています。

「5本の樹」計画とは

 日本の国土の約4割を占める「里山」は、絶滅危惧種を含めた多種多様な生き物をそこで養うばかりでなく、野生動物の移動のための回廊の役目を果たし、生態系ネットワークを形成することによって、
生物多様性

生物多様性

地球上のさまざまな生き物たちの豊かな個性とつながりのこと。食料をはじめ、私たちの日常の暮らしは、この生物多様性に支えられて成り立っている。

の保全に重要な役割を担ってきました。そこでは住まいも人の暮らしも、生態系の一員でした。しかし近年では、急速な都市開発、化石燃料に頼った住まいづくり・ライフスタイルの変化などに伴い、人間の「里山」での活動が減った結果、「里山」は減少し、本来「里山」の持っていた生物多様性が損なわれつつあります。
 当社は、数多くの住宅を供給するハウスメーカーの責任として、住宅を通じた自然環境の保全に向け、『里山本来の姿』を手本に2001年から生物多様性に配慮した造園緑化事業「5本の樹」計画を進めています。住まいの庭に小さな「里山」をつくることで、地域の自然とつなぎ、失われつつある生態系ネットワークを維持・復活させようというのが狙いの一つです。
 「5本の樹」計画には「3本は鳥のために、2本は蝶のために、日本の在来樹種を」との思いが込められています。
 日本各地の気候風土と調和し、生き物の生活と関係の深い在来樹種をこだわって植栽することで、身近な自然と共生し、時とともに愛着が深まっていく庭づくりを目指しています。
 2019年度の樹木の植栽実績は109万本で、2001年の事業開始以降の植栽本数は累計1611万本となりました。

図:「5本の樹」による生態系ネットワーク

「5本の樹」による生態系ネットワーク

 都市に、たとえ小規模でも庭を設けて樹を植えたり、街路を緑化したりすると、蝶に代表される昆虫や野鳥などの生き物が訪れる場となります。このような空間を少しでも多く設ければ、それらの生き物が生息する場所になり、そして移動するための回廊となり、生き物間で食物連鎖が生まれ、生態系ネットワークが形成されます。この生態系ネットワークが地域のそして日本の生物多様性を豊かにします。こうした空間は、生き物にとって利用しやすい場所になるだけでなく、同時に住まい手が自然の豊かさを享受することができる場所になります。

「5本の樹」計画の植栽例

図:「5本の樹」計画の植栽例

 緑量のバランスを考慮した「5本の樹」計画の庭は、生き物が生息しやすい環境をつくるだけではなく、住まい手にもさまざまなメリットをもたらします。例えば、野鳥のえさ場となる実のなる落葉広葉樹は夏には緑陰によって強い日差しを遮るだけでなく葉の蒸散作用で冷気を生み出してくれます。冬には葉を落とした枝の間から暖かな日差しを住まいの中に取り入れて冷暖房エネルギーの削減に貢献してくれます。一方、常緑樹は一年中緑の風景を保ち、小さな野鳥たちが猛禽類などから身を隠す避難場所になります。また、そこに住まう人にとっては通りからの目隠しとなったり、冬のまちなみに彩りを添えます。最近では樹木や草花の癒しの効果も注目されるようになり、「5本の樹」計画の一つの成果として現れ始めています。

 豊かに整備されたみどりは、時間の経過とともに成長して住環境への愛着をはぐくみ、住まいやまちの資産価値を高め、「経年美化」を実現する重要な要素となっています。

年間植栽実績の推移

グラフ:年間植栽実績の推移

「庭木セレクトブック」と「5本の樹・野鳥ケータイ図鑑」

写真:庭木セレクトブック

庭木セレクトブック

 「5本の樹」計画のバイブルといえる庭木図鑑「庭木セレクトブック」は、単なる樹木図鑑にとどまらず、どの植物にどんな鳥や蝶が集まってくるのか、にまで言及し植物図鑑を構成しています。庭木や草花の資料として、2001年の発刊以来、お客様との外構の打ち合わせの際にも使用しており、「5本の樹」計画に関心を持っていただくコンテンツとして大変好評です。2019年には、通算4回目となる大改訂を行いました。今回の改訂には、専門研究者(琉球大学理学部の久保田教授)の協力のもと、動植物のビックデータを活用することで、今まで人海戦術で行なっていたため確認に時間のかかっていた鳥や蝶の利用の裏付けが数多くでき、「5本の樹」の指定を288種まで増やしました。また、お客様・世間のニーズの変化・多様化に対応するため、「一般景樹」も335種と大幅に掲載樹種を増やしました。

図:5本の樹・野鳥ケータイ図鑑

5本の樹・野鳥ケータイ図鑑

 また、携帯電話から樹木やその樹木に集まる鳥や蝶の情報が入手できる「5本の樹・野鳥ケータイ図鑑」サイトを開発・公開しています。多くの方に身近な鳥や蝶にもっと親しんでもらい、自然保護の意識や環境意識の向上を図っています。

 本物の鳥の鳴き声と写真が確認できるため、いわば「携帯版ポケット自然観察図鑑」として利用が広がってきています。2014年にはスマートフォン版を公開し、さらに画像が見やすく活用しやすくなりました。