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人と自然の共生社会 活動方針①
最大の造園緑化企業として生態系に配慮した植栽の推進

「5本の樹」計画 → 2022年度 累積植栽本数1900万本

活動報告

重要性を増す都市緑化と「5本の樹」計画~年間植栽本数109万本~

 最近の気候変動に伴う異常気象は、人々の暮らしを厳しいものにするだけでなく生態系に対しても大きなダメージをもたらしています。

 都市化によって緑地が減少する中、効果的な緑化は、生態系保全につながるだけでなく、憩いの空間を創出して家族の暮らしを快適にし、地域を活性化します。機能的な緑化デザインは、雨水を貯留して水害を抑えるなど、多面的に私たちの暮らしを支えています。

 しかし、生態系保全の観点では、緑化に多用される園芸品種や外来種の樹木は、地域の鳥や昆虫にとって利用のしにくいものや、日本の気候風土に適さずに病虫害耐性が低いものも少なくありません。

 そこで、積水ハウスグループは、2001年から地域の生物にとって活用可能性の高い在来種を積極的に提案する造園緑化事業を推進しています。

 「3本は鳥のため、2本は蝶のために」という思いを込めて「5本の樹」計画と名付けており、全国でこの取り組みを進めています。これによって住宅の庭が生きものの生息や活動を支える「里山ネットワーク」を築き、生態系を豊かにすることに役立ちます。

図:「いどころ暖熱プレミアム」のイメージ

 従来、環境NGOや地域の植木生産者ネットワーク、社内の樹木医とともに選定してきた植物リストについて、2019年度は専門研究者の協力を得て動植物のビッグデータを反映して精査し、市場のニーズに合った樹種を追加して大幅に更新しました。

 この活動の結果、2019年度の「5本の樹」をはじめとした年間の植栽本数は約109万本。2001年の事業開始からの累積植栽本数は1611万本となりました。

「樹木プレート」によるコミュニケーション拡大

 邸別の詳細な植栽データのシステム整備が完成したことにより、お引き渡し後も、オーナー様に愛情を持って植物の成長を楽しんでいただくためのコミュニケーションツールの浸透を進めました。
 2018年6月に刷新した樹木プレートでは、
2次元コード

QRコード

QRコード(Quick Responseコード)は、高速読み取りを重視したマトリクス型2次元コードとして、1994年株式会社デンソーウェーブにより開発され、1997年AIMIのITS規格に登録、2000年にISO/IEC規格となっている。

によって植物の開花や結実・紅葉時期から剪定などの管理情報まで、四季を通じた庭の楽しさを、スマートフォンなどで簡単に確認できる仕組みが好評です。採用率は全国で約8割まで拡大し、発行枚数は延べ約31万枚となっています。

図:2次元コード

 右記の2次元コードにアクセスすると、実際に植栽情報がご覧いただけます。さらに樹木を利用する野鳥の鳴き声を聴くこともできます。

賃貸物件における魅力的な緑化

 一般的に採算性を重視する賃貸物件では、植栽はコストアップ要素として採用を敬遠される傾向がありました。

 しかし、当社では、適切な緑化は時間の経過とともに物件の資産価値と魅力・愛着を向上させるという「経年美化」の理念に基づいて「シャーメゾンガーデンズ」と名付けた、植栽デザインに注力した物件を積極的に展開しています。さまざまな視点から敷地環境を高める「五つの環境プレミアム(①まちなみとの調和 ②自然環境の保存と再生 ③環境負荷への配慮 ④快適性を高める設計 ⑤安全・安心をもたらす設計)」を指標とし、それぞれの項目に独自の厳しい評価基準を設け、数値化して可視化し、建物とともに敷地や周辺環境も含め、良好な住環境を創造しています。2019年度は、基準をさらに厳格化し、対象の46% に当たる1691棟、1万6623戸の「シャーメゾンガーデンズ」を供給してきました。3年後には「シャーメゾンガーデンズ」の比率を70%にまで引き上げることを目指しています。

写真:多彩な緑が植栽された賃貸併用住宅(東京都)

多彩な緑が植栽された賃貸併用住宅(東京都)

専門家による活動に対する評価

生態系に配慮した造園緑化事業について

写真:琉球大学 理学部教授 久保田 康裕氏

琉球大学 理学部教授
久保田 康裕氏

「5本の樹」計画によるアーバンエコロジーの実践

 SDGsでも重視する自然環境を守るための行動が注目されている。生物多様性や生態系を研究している科学者の立場から見ると、重要なのは、さまざまなアクションの実際の効果、つまり「実効性」である。特に民間企業の場合、あるアクションが保全目標の達成にどれくらい寄与したのか、さらには、そのアクションにかかわるエフォートが企業価値の向上にどう結びつくのかが明らかでないと、SDGsなどを志向した活動それ自体がサステナブルにならないだろう。

 積水ハウス「5本の樹」計画は、「3本は鳥のため、2本は蝶のため、日本の在来樹種を」というコンセプトで、住宅庭木の選択を推奨してきた。つまり「5本の樹」計画は地域の生物多様性の保全・再生という概念に基づいており、SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の観点で、その実効性を定量できる。

 久保田研究室の生物多様性ビッグデータ分析によると、「5本の樹」の庭木提案は、日本の都道府県に自生する木本種のうち30~45%をもカバーしていた。庭木植栽による木本種多様性のカバー率の高さは、陸上生態系の基盤を成す生物群集の再生・保全の効果という点で注目される。また、「5本の樹」計画に基づいて2001年以降に植栽された樹木は累積1600万本以上に上る。私たちの分析によると、日本における樹木本数は推定209億本以上で、日本の総人口の7割が集中する都市部に残存している林地や緑地の樹木本数は高木3905万本、小さな低木まで含めても5888万本に過ぎない。したがって「5本の樹」計画による住宅庭木の植栽本数の多さは、都市の自然再生という点で卓越した成果になるだろう。また、庭木植栽を通じて都市の二酸化炭素固定機能を強化する効果もあるので、気候変動の緩和にも貢献するだろう。

 「5本の樹」計画コンセプトによる住宅庭地のエコロジカルなデザインは、風致や癒やしなど居住の機能性を通して人々の生活空間に豊かさをもたらすだけにとどまらない。人々が愛しむ庭地はとても小さいかもしれないが、庭木がもとになって多様な生物の生育空間をもたらし、個々の庭地がネットワークとして機能することで、都市部の生態系サービスを再生する可能性を秘めている。アーバンエコロジーの実践である。「5本の樹」計画による庭木植栽のアクションは、グローバルな環境問題のソリューションの一つになるかもしれない。