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CEOメッセージ

イノベーション&コミュニケーションで、
幸せをつくり、ひろげていく、積水ハウスグループ。

代表取締役兼CEO 社長執行役員
仲井 嘉浩

 

未来への約束

 積水ハウスグループは、未来に何を残すことができるのか。突き詰めれば、企業の存在意義とは、この問いにどのように向き合い、どのようなかたちとして実現していくかに集約されていると、私は考えています。

 1960年、住まいを通じて社会に貢献するという使命のもと誕生した積水ハウスは、「人間愛」を根本哲学とする企業理念に基づき、未来に必要とされる価値を創造し続けてきました。その歩みの中で育まれてきた未来への責任。

 それは、良質で美しい「住宅ストックの形成」、地球環境を守る「グリーンファースト」、そして、未来の宝である子どもたちの幸せをつくる「キッズ・ファースト」。これらは、私たちが果たす未来への約束であり、担い続ける責任でもあります。

 “「わが家」を世界一幸せな場所にする”というグローバルビジョンを掲げ、より幸せな未来をつくる使命を担う私たちは、これらの約束を果たし続けながら、住まいを通じて生まれる幸せを、未来へつながる価値として創造し続けていきます。


良質で美しい、社会資本としての住まいを未来へ

 私たちが未来へ受け継ぎたい価値。それは、良質な住宅ストックです。1960年、人々の命と財産を守るため創業した積水ハウスは、住まいの安全性や耐久性を追求しながら、技術力や施工力の進化を重ねてきました。

 私は、住宅を人々の暮らしを支える重要な社会資本の一つと捉えています。その価値を長く保ちつづけるためには、適切な維持管理は当然のこと、「美しさ」も大切だと考えています。

 美しい住まいは、人々の記憶に残り、まちの風景となり、文化を育みながら受け継がれていきます。こうした美しい社会資本を築くことは、私たちの住まいづくりに込めた願いであり、使命でもあります。

 2023年度からは、お客様の感性を住まいに編み込む 新たなデザイン提案システム「life knit design」を開始しました。優れた機能性と景観との調和に加え、愛着とともに日々が編み込まれていく暮らしをご提供することで、住まいが幸せをつくり出す未来を実現していきます。

 阪神・淡路大震災から30年。日本は幾度となく大地震に見舞われてきました。私たちは今、「住まいの耐震性とは何か」を改めて問い直す時を迎えています。

 現在、国内には約2,920万戸の戸建住宅が存在し、そのうち約500万戸が1981年以前の旧耐震基準で建てられています。これらの住宅は、地震時に倒壊リスクを抱える深刻な課題です。さらに、新耐震基準に適合していても、現行3段階の耐震等級のうち、耐震等級1は「命を守る最低限の水準」に過ぎません。実際、過去の調査では、中破・倒壊により生活の継続が困難となった住宅が約23%を占め、避難生活や建て替えを余儀なくされるケースも少なくありません。

 震災後も日常を継続できる住まいが、真の社会資本であり、そのためには、「耐震等級3」こそが、これからの新たなスタンダードになるべきだと考えています。

 当社の住まいは、過去の大地震においても全壊・半壊ゼロという実績を残しています。この確かな実績と技術力を、海外にも展開するとともに、独自に開発した基礎と柱を直接接合する「ダイレクトジョイント構法」を耐震等級3と組み合わせる構法は、2025年度から新たに展開する戸建分譲事業での建売住宅にも標準採用されます。また、2023年度に開始した業界初の共同建築事業「SI事業」では、独自の耐震技術をオープン化し、積水ハウス建設の高精度な施工力を活かして、2025年1月から計8社のパートナー企業とともに、2029年度には年間1,000棟の供給を目指しています。

 安全・安心に暮らし続けられる良質な住宅ストックを形成し、世代を超えて愛される美しい住まいを未来へ残すことは、私たちの責任であり、価値創造のかたちです。


グリーンファーストで築く、サステナブルな未来

 未来へ受け継ぎたいもう一つの価値。それは、私たちが長年大切にしてきた「グリーンファースト」です。自然と調和した暮らしを目指し、心地良さと環境への配慮を両立する住まいづくりに、お客様とともに理解を深めながら取り組んできました。

 その第一歩は、住宅1階の南側リビングに複層ガラスを採用するという、小さな工夫から始まりました。そこから、窓の断熱化、住宅全体の断熱性能の向上へと技術を進化させ、CO₂排出量を30%、さらに50%削減する住宅の実現へとつながっています。こうした進化は、開発チームによるたゆまぬ技術革新の積み重ねによって支えられています。

 これらの取り組みは、快適性、景観の美しさ、自然との共生、そして地球環境への配慮を実現するZEH(ネッ ト・ゼロ・エネルギー・ハウス)へと結実し、2024年度には戸建住宅で96%、賃貸住宅で77%というZEH比率を達成し、社会全体の脱炭素化にも貢献しています。

 また、2001年にスタートした「5本の樹」計画では、地域の在来樹種を用いた庭づくりを推進してきました。お客様のご協力のもと、これまでに全国で2,069万本を植樹。生物多様性への保全効果を定量的に評価する手法は、ネイチャー・ポジティブ方法論として公開され、企業緑地評価にも活用されています。

 さらに、海外におけるマンションや住宅地の開発においても「5本の樹」計画や、時を経るごとに自然の美しさが深まる「経年美化」の思想を取り入れたまちづくりを展開。緑化の促進と生物多様性保全に貢献しています。

 そして、2024年12月、私たちは住宅の未来に向けた新たな取り組みとして、3万点を超える家の部材を見直し、リサイクル部材のみで家づくりを実現する「循環する家(House to House)」の2050年までの実現を宣言しました。「つくり方から、つくりなおそう。」というコンセプトのもと、住まいづくりのあり方そのものを根本から問い直すチャレンジングな取り組みです。パートナー企業や関係者の皆さまと連携しながら、住宅業界全体の未来を変える一歩へとつなげていきます。


キッズ・ファーストで育む、未来の宝

 そして、未来へ受け継ぎたい三つ目の価値。それは、子どもたちの幸せです。

 子どもたちは、未来の宝です。かけがえのないその未来の宝を、社会全体で育み、幸せづくりの一助となることは、私たちにとって重要な責任の一つだと考え、「キッズ・ファースト」を推進しています。

 今、日本の子どもたちの精神的な幸福度は、先進国の中でも決して高いとは言えません。この事実を知った時、私は思いました。住まいやまちなみがどれほど美しくても、そこに暮らす人々が幸せでなければ、本当の意味で未来に価値を残したとは言えないのではないかと。

 「幸せに暮らし続けるために、私たちにできることは何か」。その問いを重ねる中でたどり着いたのが、子どもたちの「豊かな感性を育む」という考え方でした。

 人は誰もが感性を秘めており、心が動く瞬間を重ねることで、自分らしい幸せへとつながっていくと言われています。ある冬の朝、庭の木にふわりと積もった雪が朝日に照らされて、きらきらと輝いていました。別の日には、庭木の間を飛び回る小鳥を見て、ホトトギスかなと思ったら、実はメジロだったことに気づき、思わず笑みがこぼれました。私自身も、こうした何気ない日常の中に、心がふっと動く瞬間があります。ささやかな感動や偶然の出会いが、「こういうことが、幸せなのかもしれない」と気づかせてくれるのです。

 未来の宝である子どもたちにできること。それは、感性に触れるきっかけを届けることです。壁の模様に物語を見つける子、自分のリズムで世界を感じる子。感じ方も、気づきも、喜びも、一人ひとり違っていい。大切なのは、心が動く瞬間と出会えることが、日々の暮らしの中にあることだと思います。

 この想いをかたちにするため、2025年8月に体験型住育エデュテイメント施設「JUNOPARK」をオープンします。「キッズ・ファースト」のフラッグシップとなるこの施設では、子どもたちが感性を育みながら、自分らしい幸せに気づくきっかけとなる体験を提供していきます。

 ここでの体験が、子どもたちの心に小さな「点」として残り、それがやがて「線」となって、未来を描く力になる。そうして感性豊かに育った子どもたちが、日々を楽しんで暮らし、やがて新たなイノベーションを生み出す存在へと成長していくことを、心から願っています。

 私たちはこれまでも、従業員やその家族の幸せを支える取り組みを進めてきました。2018年に開始した男性育児休業は、取得率100%を6年間継続。その一環として開発した「家族ミーティングシート」は、当社ホームページから年間13,000回以上アクセスされ、誰もが育休を取得できるノーマライズな社会の広がりを実感しています。

 子どもたちの幸せのために、社会の一人ひとりが想いを寄せ、行動を重ねていけば、きっと未来はもっと幸せになる。私たちは、その「キッズ・ファースト」の未来をともに築いていく仲間でありたいと強く願っています。

 AI技術が進化する時代にあっても、感性や日常の中でふと心が動く瞬間が、幸せにつながることに変わりはありません。テクノロジーが急速に進化する今だからこそ、私たち自身も、人の心に寄り添い、感性を育む体験を大切にしていきたいと考えています。

守り続けていく「人間愛」

 これらの未来への約束は、時代を越えて受け継がれる普遍的な価値観に根ざした、長期的な使命です。私は常々、経営には「変えていくもの」と「変えてはいけないもの」があると考えています。

 どれだけ時代が移り変わっても、決して変えてはならないもの。それは、企業理念「人間愛」です。“相手の幸せを願い、その喜びを我が喜びとする奉仕の心を以て、何事も誠実に実践する”というこの企業理念は、私たちの礎です。 私は創業期を直接経験していませんが、創業の精神が最もよく解る『30年史』を、穴が開くほど読み返してきました。そこに描かれているのは、決して順風満帆な道のりではありません。思い通りにいかない現実に向き合いながらも信念を貫き、改革を重ねてきた先人たちの姿。決断への覚悟、あきらめない誠実さ、改革の先に見出した歓びが、ページの向こうから生々しく立ち上がってくるようで、読み進めるたびに、先人たちの志を受け継ぐ覚悟が、自然と湧き上がってきます。

 経営の現場に立つようになってから、ふと立ち止まるような判断の場面に出会うことがあります。そんな時、心の中でこう問いかけます。「もし『人間愛』を本当に理解していたら、この決断には至らなかったのではないか」と。それほどまでに、企業理念は、経営の羅針盤のように、私たちの進むべき方向を示してくれる存在であり、日々の中で実践してこそ意味を持つものだと、私は確信しています。

 昨年、これまでのキャリアを携えて積水ハウスの仲間になってくれた従業員が、こんな言葉をかけてくれました。「30年史を読むと、どんな会社をつくりたいのかが感じられる気がします」。その一言が、本当にうれしかったのです。何を守り、何を変え、どこへ向かおうとしているのか。その軌跡が一本の線として読み取れるものになっていたとしたら、積水ハウスグループの未来はきっと大丈夫だと感じました。

 今年4月には、創業の精神を大切にしてほしいという想いのもと、『30年史』をコンパクトに再編集し、全従業員へお渡ししました。現在は英訳版の制作も進めており、海外の仲間たちにも届ける予定です。それぞれの立場から、先人たちの想いに少しでも触れてもらえたらと願っています。

 私にとってこの『30年史』は、経営のバイブルのような存在であり、「この想いを、どう次の時代へつないでいくのか?」という問いを投げかけてくれる一冊でもあります。創業の精神と、先人たちが積み重ねてきた志を、これからも守り続けていきます。

新たな価値を創造するため、変えていくべきもの

 「人間愛」という企業理念を守り続けながら、新たな価値を創造し、未来への責任を果たし続けるためには、変えるべきところは果敢に変えていく必要があると考えています。

 創業からの30年間を第一フェーズと位置付け、私たちは住まいの「安全・安心」という価値を提供してきました。続く1990年からの第二フェーズでは、「快適性・環境配慮」の追求に取り組み、2020年からの第三フェーズでは、“「わが家」を世界一幸せな場所にする”というグローバルビジョンのもと、「健康・つながり・学び」という、人生100年時代の幸せにつながる新たな価値創造に取り組んでいます。

 このグローバルビジョンの実現に向け、さまざまな改革を推進していますが、その鍵を握るのが、従業員の自律、専門性の強化、グループ連携という三つの力です。


変えていくために必要な、従業員の自律

 一つ目は、従業員の自律です。私が考える「自律」とは、とてもシンプルです。自分のことは自分で決めて、その決断に最後まで責任を持つこと。家族と過ごすために長期休暇を取得する、介護のために時短勤務を選ぶ。こうした決断も、素晴らしい自律の姿です。

 2003年、私は経営の第一線にいない立場でしたが、「このままではいけない」という危機感を抱いていました。誰かに言われたことをただこなすのではなく、自律した人が増えなければ、これからの会社は成り立たない。そう考え、キャリア自律研修を立ち上げました。

 とはいえ、当時は「自律」という言葉が一般的ではなく、「そんな研修をしたら辞める人が出てくるのではないか」という心配の声もありました。しかし、制度を整えるだけでは、文化は根付きません。それを「当たり前」にしていくには、時間と実践の積み重ねが必要です。

 あれから20年。蒔いた種が少しずつ芽を出し、当社の文化として育ち始めています。特にそれを実感したのが、2024年度の女性営業交流会でした。一人ひとりが自分の言葉でキャリアを語り、仕事への想いや家族との時間について話してくれました。自ら働き方のスタイルを選びながらも高いパフォーマンスを発揮している姿からは、「自分の人生を自分で選んでいる」という自信と喜びが伝わってきました。そこに、私たちが目指してきた自律の文化が、確かに根づいていると確信できたのです。

 また、ある支店で男性従業員から「育児休業を取りました。いい制度をありがとうございます」と声をかけられたことは、今でも心に残っています。自ら選んだ時間の使い方が、職場で受け入れられているという安心感と感謝の気持ちが、その言葉から感じられました。

 かつては、会社の指示に従い、周囲と足並みを揃えることで成長できた時代もありました。しかし、社会や価値観が大きく揺れ動く今の時代においては、従業員がそれぞれの立場で自律し、自らの感性や価値観をもとにアイデアを出し合うことがますます重要になります。

 キャリア自律研修、女性活躍推進、上司の意識改革など、20年にわたる取り組みの積み重ねが、積水ハウスグループの強さとなっています。そして今、「つくりたい」と思い描いてきた会社の姿が、現実のものとして見え始めている。そんな確かな手応えを感じた一年でした。


専門性の強化による、コアコンピタンスの進化

 二つ目は、「専門性の強化」です。その実現のため、私たちは専門領域に特化した会社をグループ内に設立し、それぞれが独立性を持ち挑戦できる体制を整えてきました。各社がそれぞれの分野で知見と経験を深めることで、グループ全体としての競争力は着実に向上しています。

 たとえば、1973年に設立された「積和建設」は、当社の責任施工体制を確立し、高品質な施工を支えてきました。基礎・建方に特化した専門会社を自社グループ内に持つことは、積水ハウスならではの大きな強みです。

 2023年には、積水ハウス建設ホールディングス株式会社として再編し、多くの住宅技能工を「クラフター」として迎え入れることで施工力を強化。国内では、受注量に応じた安定的な施工体制を確保しています。この確かな施工力こそが、先述の「SI事業」を実現できた最大の要因です。さらに、米国で展開するSHAWOODとNew2x4の2つのブランドによる戸建住宅事業においても、日本 で培ってきた精度の高い施工体制を移植していきます。

 先人たちから受け継いだ技術力、施工力、顧客基盤というコアコンピタンスは、私たちの揺るぎない強みであり、それを活かさない手はありません。私は国内外を問わず、機会あるごとにこのコアコンピタンスについて 語っています。なぜなら、私たちの強みは、世界的にも極めて稀な「ここにしかない価値」であり、創業の精神のもとで磨き続けてきたコアコンピタンスを起点に戦略 を描き、さらに進化させながら新たな価値を創造していくことこそが、私たちの価値創造のあり方だからです。

 2025年度は、98%の注文住宅やマンション事業で培ってきた270万戸を超える顧客基盤をさらに強化すべく、さまざまな改革を進めています。

 2025年2月には、「積水ハウスサポートプラス」を分社化し、定期点検やアフターサービスの充実に加え、新たなサービス提案を行う体制を整備しました。続いて、「積水ハウスシャーメゾンPM」を設立し、オーナー様の資産管理と入居者様へのサービス向上を図り、日本一のプロパティ・マネジメント会社を目指しています。

 さらに、「積水ハウス不動産」を立ち上げ、仲介・売却・相続などの既存のサービスに加え、新築をご希望されるお客様に優良な土地をご紹介するなど、住まいに強い不動産会社として、今後も専門性を高めていきます。


グループ連携の強化

 こうした専門性の強化は、競争力を高める一方で、組織が縦割りになり、連携が希薄になるリスクも伴います。現在、積水ハウスグループは国内外で376社に広がり、それぞれが独自の専門性を磨きながら、プロフェッショナルとしての機動力を高めています。

 しかし、私たちは、「住」を基軸とした事業領域に特化しているからこそ、専門性が分断を生むのではなく、むしろ異なる専門性を持つ各社が円を描くように有機的につながり、同じ未来に向けてベクトルを合わせることができると確信しています。

 そして、私は、この構造的な強みを活かし、1+1+1が5にも6にもなるような相乗効果を生み出す分社化や組織再編を進めてきました。専門性と連携は対立するものではなく、互いを高め合う関係にあります。それこそが、「住」に特化した積水ハウスグループだからこそ実現できるアプローチです。

 私たちは「グループ連携」を重要テーマの一つに掲げています。各社が持つ強みを持ち寄り、互いの力を理解し、掛け合わせることで、グループ全体としての価値創造をさらに加速させていきます。

ベクトルが一致している、それが積水ハウスグループの強み

 このところ、うれしい出来事がありました。昨年度、当社グループの仲間に加わった米国M.D.C. Holdings, Inc.(MDC社)の新CEOをはじめとする幹部の皆さんが来日された際のことです。

 米国4社によるワンカンパニー化に向けたPMI (Post Merger Integration)は非常に順調に進んでいます。なぜ4社が積極的にコミュニケーションを重ね、一致団結して取り組めているのか。その理由を改めて考えたとき、やはりベクトルが一致していることに尽きると感じました。

 「日本の技術をアメリカに根付かせたい」「高品質な住宅を届け、お客様を幸せにしたい」。この共通の志が4社を確かにつなぎ、強い推進力となっています。だからこそ、前向きな意見が次々と生まれ、組織としての一体感が高まっていることを実感しています。

 印象的だったのは、MDC社CEOの姿勢です。彼は現場に向かう車に箒を積み、気づいた時には自ら掃除をするそうです。「現場を綺麗にすることを日本から学んだ。だから私もそこから始めるんだ」と語ってくれました。

 積水ハウステクノロジーを海外に移植し、良質な住宅ストックを形成すること。それが、国際事業におけるM&A戦略の最大の目的です。M&Aにあたっては、住宅品質や技術、そこに込めた想い、そして企業理念に基づくお客様ファーストへの深い共感を重視してきました。

 このエピソードを聞いた時、これまでM&Aを通じて迎え入れた米国4社は、まさにその基準を満たす存在であり、この判断は間違っていなかったと再確認しました。そして同時に、真の「インテグレーション」が着実に進んでいる力強い手応えを感じた瞬間でもありました。

 もちろん課題もあります。2025年2月には、日本から約20名の技術職社員が米国に渡り、設計・施工の品質確保に向けた活動を開始しました。米国ではまだ整備されていない基準やミリ単位の厳格な品質基準とのギャップを埋めていくことが、積水ハウステクノロジーを移植する第一歩です。米国の仲間たちも真剣に取り組んでおり、本社各部門も積極的に関わっています。まさに、グループ全体の力で、新たなステージへと歩みを進めています。

イノベーション&コミュニケーションが、あふれる会社

 新たな価値を創造する私たちの合言葉は、「イノベーション&コミュニケーション」です。

 イノベーションと聞くと、大きな発明や技術革新を思い浮かべがちですが、実は身近なところから始まるものだと私は考えています。これまでのやり方を少し見直す。常識や習慣を疑う。お客様や社会にとって、もっと良い形はないかと問い直す。私自身の経験から、日々アンテナを張り巡らせている従業員こそが、イノベーションの芽を見つける力を持っていると確信しています。

 本田宗一郎さんとスーパーカブの米国展開には、印象的なエピソードがあります。日本では配達や通勤用だったバイクが、アメリカでは週末の遊び道具として受け入れられました。技術はそのままに、「使い方の価値」を再定義することで、新たな市場と文化を生み出したのです。

 こうした発想の転換は、私が共感する「Creative Destruction (創造的破壊)」の考え方にも通じます。日本語にすると少し刺激的に聞こえるかもしれませんが、私はこの言葉に込められた前向きな意味に魅力を感じています。壊すことが目的ではなく、ときに思い切った見直しや、既存の枠組みから離れる勇気も必要だということを教えてくれているようです。

当社グループでも、こうした動きが芽吹き始めています。2021年度にスタートした創発型表彰制度「SHIP」では、従業員のアイデアが事業や制度として実現するケースも生まれています。従業員と会社の寄付をアイデアと組み合わせ、社会貢献プロジェクトとして実現する新たな仕組みも始まりました。自ら問いを立て、考え、試しながら形にしていく姿に、私は大きな希望を感じています。

 もちろん、すべてのアイデアが最初から受け入れられるとは限りません。それでも、耳を傾け、対話を重ねてくれる仲間や上司の存在は、大きな支えです。

 イノベーションが生まれる組織には、発想する人と、それを受け止め、育てようとする人が欠かせません。実際、私自身も、一人で考えるより、人と話す中で「これだ」と思える瞬間を何度も経験してきました。

 自律した従業員がアイデアを出し合い、それをコミュニケーションする。コミュニケーションから新たなイノベーションが生まれてもいい。だからこそ、「イノベーション&コミュニケーション」という私たちの合言葉は、切り離せない関係なのです。私は、イノベーション&コミュニケーションがあふれる会社をつくり、皆さんとともに、新しい価値を届けていきたいと考えています。

3年間トータルで、中期経営計画を確実に達成していく

 2023年度からスタートした第6次中期経営計画では「国内の“安定成長”と海外の“積極的成長”」を基本方針に掲げ、着実に成果を積み重ねてきました。2024年度には、売上高4兆585億円、営業利益3,313億円と、過去最高を更新。私は、かねてより3年間の通期での目標達成をステークホルダーの皆さまにお約束し、 環境の変化を的確に捉えながら、ゴールへ着実に歩みを進めています。

 国内では物価や資材価格の高騰など、容易ではない環境が続く中、請負型・ストック型ビジネスを中心に成果を重ね、安定成長を実現。この安定成長こそが全事業の根幹であり、将来の成長を支える基盤です。住宅を軸に有機的につながる当社の事業ポートフォリオは世界的にも稀有であり、強固な国内基盤があるからこそ海外展開にも自信を持って取り組めています。

 米国では、初のシャーウッド分譲地開発「Sommers Bend (サマーズベンド)」が、2025年3月に全米住宅建設業者協会 (NAHB) 主催の「The Nationals 2025」で4部門のGold Awardを受賞しました。技術、設計、まちなみ、暮らし方すべてにおいて「幸せ」を追求してきた姿勢が高く評価されたことに深い喜びを感じています。

 米国市場では、金利の高止まりや政策転換など不透明な要素があるものの、慢性的な住宅不足が続いており、質の高い住宅ニーズは根強く存在しています。販売や開発のタイミングを慎重に見極めながら、2025年度に約15,000戸、2031年度には年間20,000戸の供給を目指し、積水ハウスブランドの確立に取り組んでいきます。

 現在、次期中期経営計画の議論が始まっています。私たちにとって中期経営計画は、全従業員がベクトルを合わせるための共通言語であり、3年ごとの積み重ねが、企業としての持続的成長と未来への責任を果たすことにつながっています。その実効性とリアリティを高めるには、どれだけ多くの知恵と熱量を注げるかが鍵となります。スピード感を持って変えることと変えないことを見極めながら、これからの3年間を全員で描いていきます。

私たちの存在が、社会の価値となる未来

 積水ハウスグループには、企業理念、グローバルビジョン、そして私たちらしさを再定義した「SEKISUI HOUSE_SHIP」があります。これらはそれぞれに異なる意味と重みを持ちながらも、三位一体となって一人ひとりの中に自然と根付き、日々の行動の軸となっています。

 「なぜこれらをピラミッド構造にしないのですか」と尋ねられることがあります。それは、一人ひとりが自らの審美眼と判断軸で体現していくものだからです。

 企業理念「人間愛」を普遍的な心の拠り所とし、そこから導かれたグローバルビジョンを実現するために、積水ハウスらしい行動を自ら考え、選び、実行する。誰かの指示ではなく、自らの意志でキャリアを描き、企業理念とグローバルビジョンを結びつけて行動する。そうした人々が集まる組織を目指す私たちにとって、「この構造にしておけば統制が取れる」という便利さよりも、一人ひとりの中で価値が生きることの方が大切なのです。

 このような価値観を制度面からも支えるため、今年度より報酬制度を改定しました。年1回の業績賞与は継承しつつ、年2回の賞与を完全パフォーマンス連動型へ進化させました。メリハリのある報酬制度により、納得感を持って力を発揮できる環境づくりを加速していきます。

 近年、「積水ハウスグループは時代をリードしている」との声をいただくことが増えています。目立つ成果ではなく、お客様の声に真摯に耳を傾け、必要とされる価値を丁寧に見極めてきた結果だと考えています。

 今、私たちは、幸せのあり方、働き方、住まいの価値までも、自らの価値観で再定義する時代に生きています。家が健康を育み、人と人をつなぎ、学びを深める。そんな人生100年時代の新たな価値を見出し、かたちにしていくこと。それが、私たちの目指す姿です。

 「積水ハウスと出会えてよかった」。そう心から感じていただける瞬間を一つでも多く生み出すために、コアコンピタンスの進化やグループの連携を深めながら、国内外での事業展開を進めています。そして、私たち自身が、社会にとって価値ある存在であり続けるために、時代の一歩先を照らす取り組みを、さまざまな分野で推進していきます。

 イノベーション&コミュニケーションを軸に、幸せをつくり、その幸せをひろげていく。積水ハウスグループで働くすべての従業員、当社の最高の品質を支えてくださっている協力工事店組織「積水ハウス会」の皆さま、そしてステークホルダーの皆さまとともに、これからも力強く歩みを進めてまいります。

 今後の積水ハウスグループに、どうぞご期待ください。