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空家等対策推進法のポイントと対策

税理士法人今仲清事務所 税理士 今仲 清

長期間放置され管理が不十分になった空家等は、火災の発生、建物の倒壊、衛生の悪化、防犯性の低下、景観の悪化など、地域住民に深刻な影響を及ぼしています。そこで、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家等対策推進法)が成立し、平成27年5月26日から全面施行されました。

[1] 空家等対策推進法の施行

平成25年現在、全国で820万戸ある空家等のうち、318万戸は長期間放置され、その管理が不十分になっており、火災の発生、建物の倒壊、衛生の悪化、防犯性の低下、景観の悪化など、様々な問題が発生し、特に地震などの災害が発生した場合、二次災害の危険性が高まることが指摘されています。そこで、国・都道府県が一体となって空家等問題に対処するため、平成26年11月19日に「空家等対策推進法」が成立しました。この法律は、平成27年2月26日から一部施行され、特定空家等に関する規定については平成27年5月26日から施行されています。

[2] 空家等対策推進法の概要

適切な管理が行われていない空家等がもたらす問題を解消するのは、第一義的にその空家等の所有者等に責任があります。所有者等が対応しない場合には、市町村が、空家等の調査、まちづくり等を進め、「特定空家等」の除却、修繕、立木竹の伐採等の措置の指導・助言、勧告、命令などによって空家等の解消を目指します。

「特定空家等」とは、次の状態にある空家等をいいます。
1 そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
2 そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
3 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
4 その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

国及び地方公共団体が一体となって空家等に取り組むため、空家等対策推進法によって、まず国が空家等に関する施策の基本指針を策定し、市町村が国の基本指針に即した空家等対策計画を策定の上、市町村は調査をし、空家等及びその跡地に関する情報提供その他これらの活用のための対策を実施することとされています。都道府県は、市町村に対して技術的な助言、市町村相互間の連絡調整等必要な援助を行うこととしています。

[3] 軽減されている放置空家等の敷地の固定資産税等の課税を強化

適正な管理が行われていない空家等が放置されている理由の一つとして、固定資産税等の住宅用地の特例措置が空家等の敷地であっても適用され続けている点が指摘されていました。そこで、平成27年度税制改正において、空家等対策推進法に基づく必要な措置の勧告の対象となった「特定空家等」に係る土地については、住宅用地にかかる固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例対象から除外することとされました。

<空家の敷地に対する固定資産税等の住宅用地の特例の見直し>

<空家の敷地に対する固定資産税等の住宅用地の特例の見直し>

<固定資産税の評価額と課税標準の関係図>

<固定資産税の評価額と課税標準の関係図>

[4] 特定空家等の敷地にかかる固定資産税等は約3.6倍に!

特定空家等として勧告の対象となると、たとえ建物が建っていても住宅用地にかかる固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例対象から除外されます。住宅用地の特例が適用されている200m2以内の敷地で、その固定資産税評価額が1,000万円の場合、固定資産税額・都市計画税額の合計は33,200円となります。これが、特定空家等として勧告の対象となると、固定資産税額・都市計画税額の合計は119,000円となり、なんと約3.6倍となります。しかも建物を取り壊さなければ、空き家である建物に対しても従来どおり固定資産税・都市計画税がかかります。

<設例>

<設例>

[5] 長期間空き家の賃貸不動産は相続税対策で不利に

貸家及びその敷地の所有者に相続が発生した場合のこれらの相続税評価は、宅地の自用地としての価額や家屋の価額から、「借家権割合」や「貸家建付地割合」等を乗じたものを差し引く方法で評価されますが、長期間空き家状態が続いている建物とその敷地については、借家権割合や貸家建付地割合を控除することができない場合があります。
相続税評価上の空室については、「課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること」や、「空室の期間が、課税時期前後の例えば1か月程度であること」などの一定の状況にある一時的な空室の場合は、課税時期においても賃貸されていたものとして取り扱って差し支えないこととされておりますが、空室が長期間継続しているような場合には、相続開始までに空室を解消するようにしておく必要があります。

[6] 老朽貸家建替えによる相続税額引下げ効果

昭和30年代、40年代に建てられた賃貸集合住宅は、建築から40年以上が経過して老朽化しているものが多くなっています。老朽化で空室の多くなった貸家は、いずれかの時点で建替えをするか、除却するか、売却するかなどの整理が必要になります。不動産所有者が高齢になると、交渉力と決断力が必要な老朽貸家の整理をすることが困難になってきます。どうしても後継者の代になってからでいいとして、先送りされがちです。しかし、不動産所有者が健在の間に整理を行って亡くなるのと、不動産所有者が亡くなってから老朽貸家の整理にとりかかるのでは、次のように相続税対策上は大きな差が出ます。

1. 立退き費用

集合賃貸住宅の建替えの場合は、立退き交渉をし、不動産所有者が亡くなる前に交渉が成立すれば、立退料等の諸費用を支払うことになります。その後、不動産所有者が亡くなれば立退料相当額の相続財産が減少しています。一方、相続した後に後継者が老朽貸家の整理を実施して立退料を支払う場合には、立退料相当分の財産に相続税が課税されてしまった残りで立退料を支払わなければなりません。

2. 借家権割合及び貸家建付地割合の控除

仮に10戸の集合住宅のうち、長期間にわたり2戸しか入居者がいない場合、賃貸割合は20%ですので、建物の評価額から控除される借家権割合及び土地の自用地評価額から控除される貸家建付地割合はそれぞれ20%しか控除できません。建替えが完了して100%入居していれば、これらについては100%控除できます。

3. 建物評価減の効果

建物の評価額は、新築すると建築価額の60%程度の固定資産税評価額で評価されます。仮に2億円で建築すれば固定資産税評価額は高くても1億2,000万円程度です。しかも借家権割合30%が控除されれば8,400万円が建物の評価額となり、大きな相続税評価額の減額効果が見込めます。

4. 債務控除

老朽貸家の場合、債務として残っているのはわずかな入居者からの預かり敷金又は保証金の残高です。建て替えた後は建物建築資金の借入金や入居者からの預かり敷金又は保証金の要返還分が債務控除の対象となります。

<老朽貸家の建替えによる相続税額引下げ効果>

<老朽貸家の建替えによる相続税額引下げ効果>

[7] 高齢化で住まなくなった空き家の対処法は?

1. 在宅介護に向いていない居宅

高齢者の方が20代や30代に購入した子育てのための居宅は、バリアフリーではなく、まして車いすにも対応していません。子どもが独立し、夫婦二人が元気な間は問題ありませんが、日常生活に支障が出てくる年齢になると、在宅で介護を受けたくても段差が多く、トイレやお風呂などの日常の生活には不便なことが多いものです。最近はサービス付き高齢者向け住宅も充実してきており、ケアハウス、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなどの施設に入居できなくても、自宅から高齢者向け施設に入居される方が増えてきています。そうすると、今まで住んできた居宅をどうするかが問題です。空き家のまま長期間管理せず放置しておくと空家等対策推進法の適用対象となるおそれがあります。売却、改修して賃貸、建替えによる賃貸、不動産業者などが管理を代行する空き家管理サービスなどを検討する必要があります。

2. 居住用財産を譲渡するなら住まなくなった日から3年以内

高齢者施設に入居する資金や今後の生活資金のための自宅を譲渡せざるを得ない場合もありますが、この場合には譲渡益に係る税金に注意が必要です。居住用財産を譲渡した場合には、3,000万円特別控除や軽減税率の特例などがあるのですが、これらの特例は住まなくなった日から3年以内に譲渡しなければ適用されません。当面資金が必要ないので、様子を見て売却しようとされている例もあります。サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなどに入居した場合、旧自宅には居住していないこととなりますので、入居の時点から3年以内に譲渡しなければ特例の適用ができませんのでご留意ください。

3. リバースモーゲージによる老後資金の調達

自宅を担保として、毎月一定額の生活費用を借り入れるリバースモーゲージという方法があります。将来所有者が死亡した時点で売却して精算することが前提です。住宅ローンを完済していれば、家に居住したまま生活費の不足分を補うことを目的とすることも考えられます。また、少し高級な有料老人ホームに入居するには一時金が不足するので、これを補うために利用するケースもあります。施設入居の場合には、自宅の有効活用をセットとしている商品もあるようです。あくまでも死亡時に売却して精算することが前提ですから、契約時点の譲渡価額を基にして限度額が決められます。もちろん夫婦の両方が死亡するときまで契約することが可能な場合もあります。

4. 自宅を改修して賃貸する

旧家のような広い自宅で資金に余裕のある場合には、将来相続人が引き継いで居住する予定がなければ、改修して賃貸することも可能です。最近よく見受けられるのが、このような部屋がいくつもある古い旧家の部屋を個室にしてシェアハウスとして賃貸する例です。トイレや風呂及び台所などを共同で使用し、独身の男女が共同生活をするシェアハウスの人気が高いようです。借りる側にとっては家賃が安く済み、貸す側にとってはトータルで高い収益性があります。古い建物を取り壊すことなく、その雰囲気を活かした良い方法といえますが、改修に係る費用と賃料収入の収益性をしっかり確認しておく必要があります。

5. 都心部の自宅敷地の建替えによる賃貸経営

都心部の敷地が30坪から60坪程度の1戸建てでも、売却するのではなく、建て替えて賃貸経営をしている例も増えています。施設に入居するのではなく、自宅で介護を受けながら余生を過ごしたいというご希望の方も多いようですので、完全バリアフリーでお風呂やトイレも介護仕様にし、建替え費用を賃貸併用にすることで軽減する方法もあります。敷地の広さと立地による賃貸市場の状況などによって可能な地域もあります。今後必要と見込まれる生活費と、自己資金、年金収入見込みなどと、建替えに必要な資金及び賃料収入の見込みなどを総合的にシミュレーションし、慎重に計画を立てて実行する必要があります。

賃貸住宅経営をされている方にとって空き家や空室の状態が続くことはもともと好ましいものではありません。ご自身の健康状態や資金など様々な要因で空き家や空室の状態が続いていることもあるでしょう。また、相続した自宅が空き屋状態となるケースもあります。これを機会に収益確保と相続税対策のためにも空き家や老朽貸家の整理に手を付けられてはいかがでしょうか。

※本サイトに掲載の内容は、令和4年6月現在の法令に基づき作成しております。

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