秋がぐっと深まってきました。モンテッソーリ教師あきえ先生が季節ごとにおすすめの絵本を紹介しているこの企画。今回は読書・芸術の秋ということで、「五感をどんどん刺激してくれる本」をテーマに、大人向けの選書もいただきました。秋の夜長に、親子で楽しむ読み聞かせの時間も、それぞれが好きな本を読む時間も、ぜひお楽しみください。

モンテッソーリ教師
あきえ先生

読書の秋・・・ではありますが、最近の子どもたちはとても忙しそうに見えて、「ゆっくり読書をする時間はあるのかな?」と心配になるときがあります。
読み聞かせをしてあげる大人も忙しく、どうしても焦りがちですが、“今ここ”をどう過ごすかよりも、先を見越して、そこに間に合うように、早く、早く・・・と常に先を意識しながら生活し過ぎていないでしょうか。

物事が計画通りに運ぶことももちろん大切ですが、“今ここ”という瞬間を見過ごさないこと、その時間/空間を共有することでしか得られないものがある、ということもぜひ忘れないでほしいなと思います。今回は、そんな特別な瞬間を逃さないためにも、五感をどんどん刺激してくれて、親子で共有できるような本を選んでみました。

01 秋の心地良い気候のなか、親子で一緒に感性を育める絵本

『ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ』

(文:谷川 俊太郎/絵:おかざき けんじろう/出版:クレヨンハウス)
おすすめ年齢:0歳〜

この本は、我が家の長女がお気に入りだった1冊で、ビリビリになるまでずっと読んでいました。谷川俊太郎さんらしい、遊び心のある言葉がたくさん載っています。音読する大人にとっては、発したことのないような音や、少し発音しにくい言葉もありますが、正しく読む必要はないので、一つひとつゆっくり口にしながらぜひ読んであげてください。

ここに載っている言葉は、言葉というより“音”として楽しいので、言葉を発する前、0歳からでも楽しめると思います。同じ言葉でもちょっとリズムを変えてみたり、アクセントの位置を変えてみたり…。読みながら言葉遊び、音遊びを楽しんでもらえたらと思います。

『あきの おさんぽ いいもの いくつ?』

(作・絵:おおたぐろ まり/出版:福音館書店)
おすすめ年齢:3歳〜

秋になると道端で見つけることのできる草花や虫たちが、次々と登場する1冊です。「みっけ!」的な要素もあり、探すべき木の実などが1つ、2つ・・・と、どんどん増えていくところが良いんです。数を数える練習になることはもちろん、1匹、1羽など数詞を覚えるきっかけにもなります。絵がすごく写実的なところもステキです。

自然の中を散歩しているような気持ちにもなるし、実際に自分たちが外へ行ったとき、本に出ていたものと実物とを重ねやすくする図鑑のような役目も果たしてくれます。
絵本で見たものが実際に目の前に現れて「あ!これ知ってる!」となるのは、子どもにとってとても大きな発見ですし、まだ見ぬさまざまな世界を追体験できるのが本の魅力ですよね。

『きょうのおやつは』

(作:わたなべ ちなつ/出版:福音館書店)
おすすめ年齢:5歳〜

これは鏡のように反射する紙でつくられた絵本です。ページを開くと、両側の絵が映りこんで立体的に見えます。卵、小麦粉、お砂糖…一体何が出来上がるんだろう!と、登場する猫と同じ視点で楽しむこともできますし、ピカピカの紙に「あれを写したらどうなるだろう」「自分の顔を写してみようかな」と試してみることもできます。とにかく好奇心をくすぐられる1冊です。

モンテッソーリ教育で大事にしていることのひとつに“日常生活の練習”という項目があります。その中には“環境への配慮”と言って、食事をするときはテーブルセッティングをする、お皿を並べる、季節のお花を生けるなど、いわゆる家事のようなことを2歳半くらいからみんなで協力しながら行っていきます。この本にはその要素もあると思いました。おやつができるまでの工程はもちろんですが、それを食べるためにはフォークがいるのか?それともスプーンなのか?どんな大きさのお皿がいいのか?じゃあお茶も用意しようかな…などと、ぜひ絵本を一緒に読み進めながら話してもらえたらと思います。

『モンテッソーリ式 すなもじ あいうえお』

(監修:しののめモンテッソーリ子どもの家/出版:朝日新聞出版)
おすすめ年齢:2歳〜

モンテッソーリ教育の教具に、木板に凹凸をつけて文字が描かれている「砂文字」というものがあります。この絵本はその教具を一般向けに、ポップにアレンジしたものです。
0〜6歳はモンテッソーリ教育で言うと「感覚の敏感期」にあたる時期で、自分の五感を研ぎ澄まして、感覚器官をどんどん洗練させていく時期。でも、まだ筆記用具がうまく持てないので、ザラザラした文字を指でなぞっていくこの本はとても有効だと思います。

子どもが文字をなぞるときは、1本指ではなく、2本指でなぞるようにガイドしてあげてください。子どもの指はまだ細いので、指1本だと太い文字の一部分しか触れず、ザラザラとした感触をあまり感じられないんです。さらに、「オバケの“お”だね」「おにぎりの“お”だね」と、文字をなぞりながら音でも伝えていくと聴覚の刺激にもなります。いろいろな感覚を使って楽しんでいる時期に、感覚器官を通して、文字の形を知る楽しさを気づいてもらえたらと思います。

02 日々を見つめ直し、心も癒してくれる、大人のための選書

『センス・オブ・ワンダー(文庫版)』

(著:レイチェル・カーソン/翻訳:上遠 恵子/写真:川内 倫子/出版:新潮社)

“センス・オブ・ワンダー”――つまり、驚いたり感動したりする感性はすごく大切だと思いますが、今の時代、子どもも大人も毎日忙しいので、もしかしたら感動できたかもしれない瞬間を逃していることも多いのでは?と思っています。
子どもって、それをやる意味などは関係なく、いま目の前にある物事にとにかく没頭するときがありますよね。その時間で子どもの中に何かが芽生えることがあるはずですし、そんな時間や瞬間を親子で共有することでしか育まれないものもあると思っています。
この本には、人間と自然とのつながり、その深さや意義などが語られていて、今の自分の時間の過ごし方を振り返る良いきっかけになると思います。

『愛するということ』

(著:エーリッヒ・フロム/翻訳:鈴木 晶/出版:紀伊國屋書店)

“子どもを信じる”“子どもを愛する”と、言葉で言うのは簡単ですし、理想ではありますが、自分なりの答えはなかなか見つからないですよね。この本は、子どもへの愛だけでなく、さまざまな対象に対する愛の在り方や迷宮入りしそうな問いに対して、とても理論的に、冷静に紐解いていきます。ときに「“愛する”というのは、ひとつのスキルだよ」と言い切ったりもします。これまで子どもや家族に対してどんな愛を向けてきたか?これからはどうしていきたいか?この本はそんなことを改めて見つめ直すきっかけを与えてくれるのではないでしょうか。


◇最後に、日々の育児に迷ったら読んでほしい、あきえ先生の近著『子育ての“イラッ”“モヤッ”を手放す本』をご紹介します。

「この本は“子育ての救急箱”になれば良いなと思いながら作りました。日々、“イライラ”“モヤモヤ”する場面に対してどう対処すれば良いのか、ということはもちろんですが、“なぜそうなるのか”という背景や理論も分かりやすく伝えています」

『子育ての“イラッ”“モヤッ”を手放す本』(著:モンテッソーリ教師 あきえ/出版:小学館)

大人の気持ちをスッキリさせてくれるあきえ先生の著書は、子育ての心強い味方として手元に置いておきたい一冊です。日々試行錯誤しながら子どもたちに愛を注ぐ大人のみなさんにとって、きっとヒントになることがたくさんあります。ぜひ読んでみてください。

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