Case4:
北海道S邸
夫・妻・長男(11歳)・双子の次男三男(4歳)の5人暮らし

01 家族みんながそれぞれ自由に居られる心地良い大空間

ご主人の実家から程近い場所に新居を構えたSさん夫妻。理想の土地を探し続け、3年かけてやっと見つけたのが裏山の緑が美しく広がる場所でした。

「実家もリビングの窓から山が見えるんです。子どものころ、山が緑になっているなとか、紅葉しているなと眺めるのが生活の一部になっていました。当時は特別なことだとは意識していませんでしたが、今思うとそれが実家の記憶になっていて、すごく良い環境だったなと思ったんです」

結婚当初は札幌市の中心地に近い住宅街に住んでいましたが、長男が生まれ、「自分が子どものころに感じたような実家の記憶を感じてほしい」と思ったのが家を建てる一番の動機になったと言います。

設計士であるご主人も、それまでは特に自分の家を建てたいという気持ちはなかったと振り返ります。子どもが生まれて始めて自身の原体験を思い起こし、休みのたびに土地を探して回るように。

お2人の理想を叶えたこの場所は、リビングからの景色だけを見ると、まるで山奥に暮らしているかのような自然豊かなロケーション。でも実は、反対側はバス通りに面していて、最寄り駅へのアクセスも良く利便性抜群の好立地です。

「キャンプ場にいるような暮らしをしたい」。そんな望みが住宅街の中でも叶いました。キャンプ好きのご主人が設計したこの家のコンセプトは、大きなテント。「大きなひとつの空間で家族みんながそれぞれ自由に居られる心地良い空間を意識しました」と言います。

「キャンプ場に行くと、フリーサイトの中でまずどこにテントを張るか、一番眺めの良い場所はどこかと探しますよね。そしてテントの入り口をどこに向けるか。朝起きて、テントの扉を開けたときに、良い景色が広がっている感じをイメージして設計しました。リビングから見える景色だけでなく、キッチンに立ったときにちょうど隣の家が見えないようにするなど、窓の角度にもこだわっています」

裏山と家の間には小さな川が流れ、窓を開けると水の音が心地よく、まさにキャンプ場のようです。

「この家を建ててから、キャンプ場へ行かなくても毎日キャンプしている気分ですね。冬には雪が積るとウッドデッキにかまくらを作って、その中で長男とカップラーメンを食べたりしています。それからここは鳥がよく来るんですよ。家族で野鳥図鑑を片手に、鳴き声をインターネットで調べながら子どもたちと鳥の名前を覚えたり、虫を観察したり。そんな日常の中で、子どもたちは自然の中で野生的に育ってくれているなと感じます」

02 子どもたちの成長を感じるための「余白」を残した環境づくり

大きなテントをイメージして設計されたこの家には、1階にも2階にも間仕切りがほとんどなく、家全体がワンルームのような造り。子どもの成長に合わせて変えられる自由さを大切にしたかったと言うSさん。家族とともに家も成長していけるように空間に“余白”を残しました。

「あまり作り込みすぎないことで面白い変化が生まれるのかなと。子どもがどう育つのか、どういうことに興味が湧くのか、様子を見ながら、それに合わせて家をカスタマイズしていきたいと、設計しているときから思っていました。

この家には個室がないのですが、それを子ども自身がどのタイミングでどういう風に感じるのか、自立、親離れ、そのタイミングは彼ら次第。それによって子どもたちの意思を尊重して、どんなスペースにするのかを一緒に考えます」

長男が小学校4年生になったころ、「1人で寝る場所がほしい」というリクエストがありました。そこで親子でどんな場所を作るかアイデアを出し合って、DIYで一緒に作った寝床は、シングルベッドがちょうど収まるサイズの隠れ家的な空間に仕上がりました。完全な個室ではなく、昼間は弟たちも自由に出入りし、兄弟の遊び場のひとつにもなっています。