積水ハウスの「5本の樹」計画とは?

「5本の樹」計画20年間の歩み

当社が2001年から行ってきた「5本の樹」計画とは、“3本は鳥のために、2本は蝶のために、地域の在来樹種を”という思いを込めた植栽事業です。一般的な造園で多用される園芸品種や外来樹種ではなく、地域の在来樹種を中心に植栽計画を行うことで、生物多様性により効果の高い庭を提供。小さな「点」である庭が街の中で連続して「線」となり、さらに里山など地域の自然とつながることで都市部の「生態系ネットワーク」を形成し、生態系保全に貢献するものです。

「5本の樹」計画の考えに賛同いただいた多くのお客様のご協力のもと、2001年からの20年間で植栽した樹木は累積で1709万本。そして今般、琉球大学との共同検証により、この1709万本による生物多様性保全効果の実効性を、樹木本数・樹種・位置データと生態系に関するビッグデータを用い、世界で初めて定量化しました。都市部の生物多様性保全活動の効果を定量的に評価できるようになるため、より効果的な取り組みの推進が期待されます。

1.生物多様性の定量評価

日本全体での「5本の樹」計画の効果検証を行うため、2019年から琉球大学久保田研究室・株式会社シンクネイチャーとの共同検証によって、このネットワーク型の緑化が、都市の生物多様性にどの程度貢献できているかの定量評価を進めてきました。久保田教授が立ち上げた株式会社シンクネイチャーが管理運営する「日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)※1」を基に、積水ハウス「5本の樹」計画の20年間で植栽した樹木データを分析することで、生物多様性保全再生に関する定量的な実効性評価を実現したのです。

※1 日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP):Japan Biodiversity Mapping project 生物多様性の保全に関連する50項目以上の地理情報を高解像度(1km x 1km)で可視化。(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com

地域の在来種の樹種数が平均5種から50種の10倍に!
在来種の樹種数が増えることで、生物多様性の基盤を強化することにつながったと考えられます。

「5本の樹」計画を行わなかった場合 在来種の樹種 平均5種類(累計542万本) 10倍→ 「5本の樹」計画の効果  平均50種類(累計1709万本)

鳥の種類は2倍に、蝶は5倍になる可能性が!
3大都市圏では生物多様性データが存在する1977年の約30%にまで回復しました。

「5本の樹」計画を行わなかった場合 鳥類 平均9種類 2倍→ 「5本の樹」計画の効果 平均18種類
「5本の樹」計画を行わなかった場合 蝶類 平均1.3種類 5倍→ 「5本の樹」計画の効果 平均6.種9種類

上の各グラフから、積水ハウスがお客様とともに歩んだ20年間の「5本の樹」計画が生物多様性保全に貢献したことがお分かりいただけるかと思います。数値データが開示できることで、生物多様性が財務価値化に繋がり、生物多様性への貢献を定量的に可視化できるようになりました。これは、世界初の都市の生物多様性の定量評価の仕組み構築、実例への適用です。

2.将来予想される効果

久保田研究室のビッグデータを活用して、「5本の樹」計画を三大都市圏で拡大実施した場合の生物多様性保全効果の変動をシミュレーションしました。1977年を100%とし、2070年までの変動を条件ごとに予測してグラフにしています。
このシミュレーションによれば、地域の生き物にとって活用可能性の高い在来樹種を植栽することで(「5本の樹」計画)、「5本の樹」計画開始前の2000年と比較して、国際的にも生物多様性保全の目標年とされる2030年には37.4%、2050年には40.9%、さらに2070年には41.9%まで回復できることが確認されました。 この在来樹種による取り組みが当社だけでなく、今後日本で新築される物件の30%について「5本の樹」計画が採用された場合、その回復効果は84.6%まで上昇するという予測ができています。

生物多様性保全効果のシミュレーション
                                三大都市圏(関東・近畿・中京)

※2 多様度統合指数:1kmメッシュあたりの樹木の種数と個体数、鳥類とチョウ類それぞれの多様度指数と個体数の6変数について1977年を100としたときの値

3.「OECM※3」実現への寄与の可能性

COP15の大きなテーマとして、2030年までに保護地域の面積を30%とする「30by30」がありますが、既に約20%を占めている公的な保護地域の拡大だけでカバーすることは極めて困難とされています。そのために、民間の取り組みによって生物多様性の保全が図られている区域を「OECM」として認定し、面積加算することが検討されています。
本共同検証で得られた「生物多様性の実効性評価」は、OECMとして加算可能か否かを定量的に判断する手法として貢献できる可能性があります。特に、今回の「5本の樹」のような都市の小規模な緑地の集合が「ネットワーク型OECM」として認められれば、庭でできる市民運動としての生態系保全、日本ならではの官民一体となった生物多様性保全活動に繋げられる可能性があると期待しています。

※3 OECM: Other Effective area-based Conservation Measures(民間取組等と連携した自然環境保全)

ネイチャー・ポジティブ方法論

1人からでも1社からでも始められる生物多様性保全への貢献、積水ハウスのネイチャー・ポジティブ方法論をご紹介します。

ネイチャー・ポジティブとは、自然を増やすなどの意味を持つ言葉で、企業などが生物多様性保全を考える際によく使われるキーワードです。地球上のすべての生命の持続可能な未来のために、生物多様性保全に留まらず、2030年までに回復軌道に乗せることが大事だと言われています。
今回公開している方法論のすべてのベースは“定量化”にあります。 生物多様性を定量評価できたことで住宅の庭や市民の自然保護活動の達成度や目標設定を数値化できるほか、あらゆる産業において財務指標化につなげることができ、皆さんが生物多様性保全に取り組む際に活用していただけるようになりました。

ネイチャーポジティブを叶える3つのSTEP

ネイチャーポジティブを叶える
3つのSTEP

STEP1

樹を植える

庭を多様な生きものが利用できる環境にするためには、住んでいる地域の在来樹種を中心に計画するのが効果的。

どんな樹を植えたらいいの? どんな樹を植えたらいいの?

積水ハウスの庭木セレクトブックをお役立てください! 積水ハウスの庭木セレクトブックをお役立てください!

前半では「5本の樹」に選ばれた樹木について、それぞれの特徴や観賞ポイントに加え、呼べる可能性のある鳥・蝶も併せて紹介。樹木と生きものの相関関係がよくわかります。後半は庭木としてよく使われる樹木(園芸品種や外来種を含む)を「一般景樹」と名付けて掲載。庭木を選ぶ視点が広がる一冊です。

※閲覧のみのご利用。二次利用、転載は固く禁じます。

2023年5月中旬ごろより、アンケート回答後、閲覧ページが表示されていないことが判明いたしました。
この期間にアクセスいただいだ皆様におかれましては、ご迷惑をおかけ致しまして大変申し訳ございません。
現在は、復旧しておりますので、引き続きご活用いただければ幸いです。

STEP2

樹木データを蓄積する

植樹した樹が「ネイチャー・ポジティブにどのくらい貢献しているか」を知るためには、活動を数値化することが必要です。

どんなデータが必要なの? どんなデータが必要なの?

位置情報・樹種・本数のデータが必要! 位置情報・樹種・本数のデータが必要!

位置情報+樹種+本数 位置情報+樹種+本数

STEP1で植えた樹木について、「いつ(植栽年)」「どこに(位置情報)」「何を(樹種)」「どれだけ(本数)」植えたのか、情報を集めて蓄積します。「樹木の高さ」のデータもあるとなお良いでしょう。

STEP3

ネイチャー・ポジティブを定量評価する ネイチャー・ポジティブを定量評価する

樹木データ×日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)→分析 数値化 定量評価
                                    都市部に植栽した樹種・本数によって呼び込める鳥・蝶の種数を推測できる。

さあ、いよいよネイチャーポジティブの数値化です。STEP2で蓄積した「樹木データ」と、琉球大学理学部久保田研究室、株式会社シンクネイチャーによる生物多様性ビッグデータ(日本の生物多様性地図化プロジェクト https://biodiversity-map.thinknature-japan.com )を掛け合わせて分析。生物群集内の多様性を表す生物多様度指数に応用することで数値化し、各エリアでの定量化を可能にしました。

3つのステップによって樹木と生きものの相関関係の数値化、各エリアでの定量化が可能に!

3つのステップによって
樹木と生きものの相関関係の数値化、
各エリアでの定量化が可能に!

これにより

実効性評価が可能に!

(活動内容の数値化)

生物多様性の回復にどの程度貢献できているかを数値的に定量化できる。

将来予測が可能に!

(活動目標の数値化)

効果の可視化によって、より具体的な目標設定が可能になる。

column

「生き物が増えれば多様性が高くなる」というわけではありません。

ここまで生物多様性保全の方法論をご紹介してきましたが、そもそも「多様性が保たれている」というのはどういう状態のことを指すのでしょうか。
まず、単一の生き物が増えるだけでは多様性が高いとは言えない、ということは簡単にご理解いただけると思います。さらに、種の数が増えたとしても、それぞれの個体数に大きなばらつきがあっては多様性が高いとは言えません。それぞれの種が均等に生息する環境を実現して始めて、多様性が高いと言えるのです。多様性の高さをできるだけ把握するためにも、上記のように数値化・定量化できることは大きな意味を持つと言えるでしょう。

この方法論が積水ハウスだけの取り組みにとどまらず、
日本の多くの住宅が「5本の樹」をお庭に取り入れると、
その効果はさらに向上します。