博多織イメージ

こだわりのものづくり 博多織

和服は愛好家が楽しむものというイメージがありますが、
かつては日常からハレの日まで、幅広く着られていました。
着物や帯の産地も全国にあり、
その土地の歴史や風土を背景に生まれた色柄や技法は
現代の職人によって脈々と受け継がれています。
今回お届けするのは、
国の伝統的工芸品に指定されている「博多織」。
こだわりの手仕事や新しい風をもたらす挑戦に迫ります。

博多千年門

歴史と文化が薫る寺社エリアへのゲート「博多千年門」は博多旧市街地のシンボル。欄間に「献上柄」が刻まれています。

永い歴史に育まれた博多帯

愛され続ける「絹鳴り」と「献上柄」

献上柄

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五色献上

@福岡県観光連盟

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1. ふと気がつけば、あんなところにも、こんなところにも「献上柄」が。博多織がこの街の誇りであることを実感します。
2. 徳川幕府に献上されていた「五色献上」。五色は、万物の基を「木・火・土・金・水」とする古代中国の思想、五行説に由来します。

博多は帯の三大産地のひとつ。丈夫でありながらしなやかで、着け心地の良い博多織の帯は、たくさんの経糸を丹念に織り込んでいるためしっかりとしたコシがあり、締めた時に「絹鳴り」と呼ばれる独特の音がします。
その「絹鳴り」とともに着物ファンを魅了するのが、「献上柄」です。モチーフとなっているのは、仏を供養する際に散布する花を入れる華皿と、煩悩を打ち砕くとされる密教法具の一つ、独鈷。そして、太い線を親、細い線を子に見立てた親子縞と孝行縞。それらを組み合わせた幾何学模様の帯や反物を福岡藩初代藩主・黒田長政が徳川幕府への献上品に選んだことから「献上柄」と名づけられました。
そんな博多織のはじまりは、鎌倉時代中期に遡ります。1235年、臨済宗の僧侶・聖一国師とともに宋に渡った博多の商人・満田彌三右衛門が、織物・朱焼・箔焼・素麺・麝香丸の5つの技法を習得して1241年に帰国。その中から織物づくりだけを家伝とし、独自の技法を加えたことが今日の博多織の源流とされています。
中世において日本最大の国際交易都市として栄えた博多。多くの寺社や古い街並みが残る博多旧市街地には、情緒豊かな承天寺通りや織元の旧家を移築・復元した「博多町家」ふるさと館など、魅力的なスポットが点在しています。780年を超える博多織の歴史に思いを馳せながら街歩きを楽しんでみてはいかがでしょうか。

承天寺通り

車道を小川に、歩道をその川岸の遊歩道に見立てた承天寺通り。都心とは思えない静寂が広がります。

博多町家ふるさと館
博多町家ふるさと館

明治・大正時代を中心に博多の暮らしと文化を紹介する「博多町家」ふるさと館。手織の実演・体験を楽しむことができます。

先代から受け継がれた年代ものの織機

先々代、先代から受け継がれた年代ものの織機が並ぶ姿は壮観。「いろんなものを織れる織機があって、織れる人もいる。欲張りな会社なんです」と6代目社長・西村さん。

いちばん古くて、いちばん新しい。

博多織最古の織元 西村織物

カシャン、カシャン、カシャン、カシャン。使い込まれた織機のリズミカルな音がどこか耳に心地よい織物工場。6名の伝統工芸士を含む職人さんたちがそれぞれの持ち場で黙々と手際よく作業をする姿に、思わず見入ってしまいます。
博多織最古の織元・西村織物の起源は戦国時代の1587年。絹糸の商人として貿易をはじめ、江戸時代末期の1861年に織屋に転向。その後、太平洋戦争による工場の焼失や景気の低迷など数々の困難を乗り越え、今年、創業165周年を迎えました。
「伝統文化が途絶えてしまうことは社会的ロスだと思っているので、ここで終わらせるわけにはいきません。最古の織元として、博多織を背負っているという感覚でものづくりをしています」。そう語るのは、2016年に六代目社長に就任した西村聡一郎さん。「今、生糸が高騰しているのですが、世界最高品質のブラジル産の生糸、その中でも選りすぐりのものを使い続けています。また、数千本の経糸を織機に通す “仕掛け〟を織物に合わせてすべて変えるなど、合理性や効率性では測れない価値を大切にしています」。
そうした“これまでと変わらないこだわり”がある一方で、新たな可能性を切りひらくプロジェクトにも参画。きっかけはコロナ禍だったそうで、「それまでは伝統を守るために現状を維持しなければ、という思いが強かったのですが、厳しい状況になったことで、もっと頭を柔らかくして新しいことをしよう、社員が安心して生活できるようにしよう、と気持ちを切り替えました」。

「整経」の工程

帯に必要な経糸は7,000〜15,000本。「整経」の工程でそのすべてを整えます。

製織

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糸繰り

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西村織物

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過去の生地サンプル

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1. 「製織」では気温や湿度に合わせて織機を微妙に調整。職人の力量が問われます。
2. 染め上がった糸を作業しやすいように巻き直す「糸繰り」。糸づくり以外の工程を社内一貫体制で行なっています。
3. 西村織物は世界的なシルクメーカー・ブラタク社と取引をする日本でも数少ない公認織元。
4. 過去の生地サンプルが大切に保存され、今も作品づくりのヒントになっています。

折よく福岡市内のラグジュアリーホテルから内装の依頼があり思い切って引き受けたところ評判が広がり、異業種とのコラボレーションが加速。さらに、絹糸の心地よさを日常的に楽しんでいただきたいという思いから生まれたアップサイクルブランド「ObitO」やショップ&ギャラリー「ORIBA」の立ち上げなど、社内の動きも活発になっていきました。
「西村織物が多くの方に知られるようになって、織物をつくる意義を今あらためて実感しています」と西村さん。今後は、長年蓄積されてきた図案のアーカイブ化や、海外に向けた発信にも力を入れていきたいとのこと。最古にして最先端。博多織を、日本の織物を未来へと紡ぐ西村織物の存在感は、これからますます高まってゆくにちがいありません。

西村織物株式会社

6代目社長 西村 聡一郎さん

6代目社長 西村 聡一郎さん

アートパネル

日本の伝統的な紋様 「重ね菱」 を現代風にアレンジしたアートパネル。
上質な織物はアイデア次第で魅力的なインテリアになります。

タイ迎賓館
ザ・リッツ・カールトン福岡

タイ迎賓館(上)やザ・リッツ・カールトン福岡(下)のアートワークなど、活躍の場が広がっています。

本袋帯「方丈」袋帯「佐賀錦II 綾煌」

経糸に1万本以上の絹糸を使用したこだわりの本袋帯「方丈」(左)と、日本の伝統建築、町家の連子格子をスタイリッシュに表現した袋帯「佐賀錦II 綾煌 連子格子」(右)

新たな織り方を探求する職人

約60年の月日を重ねてなお新たな技法を探求する職人さんたち。その技術と精神は着実に次の世代へ。

糸染め

「糸染め」は長年の経験に裏打ちされた勘染め。オリジナルで作り出す色は1,000色以上に及びます。

意匠

様々な分野からインスピレーションを得ながら、伝統的な紋様や新たな図案を手がける「意匠」。

世界にひとつ、を織り続ける。

博多織作家・博多織伝統工芸士 荒木 希代さん

元システムエンジニアという異色の経歴を持つ荒木さん。海外旅行でカンボジアを訪れた際に世界遺産が他国によって修復されている光景を目にし、自分の国の文化を自分の手で守れるようになりたいと、博多織デベロップメントカレッジ(現博多織DC)に入校。伝統的な技術や知識を学びます。「理系なのでCADを使う意匠(デザイン)がとにかく楽しくて。卒業後に今も使っている機織り機を買って、着物やスカーフを織っていました」。
その頃、同期の大内田明子さんが養蚕と生糸づくりを始めたことから、大内田さんの生糸を使って荒木さんが染織するという一貫生産プロジェクト“まゆ姫の夢”を二人で立ち上げます。「私たちが手掛けているのは、博多生絹です。博多帯とともに幕府に献上されていた織物で歴史はあるのですが、帯が主流になって以降、担い手がいない状態が続いていました」。生絹とは、繭から引いたままの精錬されていない生糸を用いた織物。軽やかなシャリ感と透け感が大きな特徴です。
意匠、染色、製織など一連の工程をすべて自ら行なう荒木さん。作品をつくる上で大切にしているのは、“一点もの”であること。「あえてムラのある染め方をしたり、ランダムに織ったりと、全く同じものはできないつくり方をしています」。
自由な発想で創作する一方、 “浮き織り”という博多織の伝統的な技法にも挑戦。人間国宝の博多織職人・小川規三郎さんの「生涯修行」という言葉を胸に、荒木さんは今日も工房で手と頭をフル回転させています。

受賞歴も豊富な荒木さん

2021年に伝統工芸士(博多織 製織部門)に認定され、受賞歴も豊富な荒木さん。
“まゆ姫の夢” の活動の他にも博多織小物ブランド “CO.COON” を立ち上げるなど、幅広く活躍しています。

荒木 希代さん

荒木 希代さん

1. 透け感や艶が美しい生絹の反物や帯。荒木さんはじつは紬の織り手でもあり、左から2つめの反物は紬織着尺「石畳道」。内閣総理大臣賞を受賞した作品です。
2. 糸はすべて自身で染色。「草木染め、化学染料、それらのミックスなどさまざまです。実験みたいな感じがすごく楽しいですね」。
3. 極めて細い生絹の糸。セリシンというたんぱく質が残っているため、独特の光沢があります。
4. 「楽しいのは試し織りまで。本番に入ってからは同じことの繰り返しで、まさに修行です」と笑う荒木さん。息抜きは子どもの頃から大好きな編み物と、やはり手仕事。

透け感や艶が美しい生絹の反物や帯

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糸はすべて自身で染色

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極めて細い生絹の糸

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繰り返し

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