こだわりのものづくりイメージ

こだわりのものづくり磁器

なめらかな手触り。豊かな色彩。白の艶やかさ。
日々の食卓はもちろん、おもてなしのシーンにも映える「磁器」。
その魅力はどのように生み出されているのでしょうか。
グランドメゾンが一邸一邸の住まいづくりにこだわるように、
どの器にも作り手のこだわりがきっとあるはず。
そこに込められた想いを知るために、いにしえの陶都・瀬戸と、
日本初のディナーセット誕生の地・名古屋を訪れました。

窯垣の小径

瀬戸でしか見ることのできない景観を楽しめる“窯垣の小径”。登窯や石炭窯で使用する
窯道具を積み上げてつくられた塀や壁から、暮らしに深く息づく焼きもの文化が伝わります。

“せともの”のまち・瀬戸

国内初の施釉陶器、磁器で世界へ

日本は世界有数の陶磁器の宝庫。なかでも中世から続く代表的な産地は六古窯と呼ばれ、日本遺産にも認定されています。今回訪れたのはそのひとつ、瀬戸。良質な陶土に恵まれ、土を主な原料とする陶器と、石を主な原料とする磁器の両方をつくる、全国的にも珍しい産地です。そのため焼きものの種類も豊富で、“瀬戸でつくれないものはない”と言われるほど。本来、この地でつくられる焼きもの=瀬戸焼を意味していた“せともの”は、いつしか陶磁器全般を指す言葉となりました。
瀬戸焼の歴史は古く、5世紀後半に現在の名古屋市・東山丘陵周辺で須恵器を生産していた猿投窯を起源とします。鎌倉〜室町時代にかけては当時国内で唯一、釉薬を施した陶器・古瀬戸が生産され、人気を博しました。江戸時代後期になると、後に磁祖と讃えられる加藤民吉が九州で習得した製磁技術を瀬戸にもたらしたことで、磁器の生産が本格化。繊細な濃淡で瀬戸の自然を描く独自の染付技法も確立され、明治時代に入ると海外で高い評価を得ます。その技術は現在に受け継がれ、瀬戸染付焼は1997年に国の伝統的工芸品に指定されました。

長く愛される暮らしの器づくり

瀬戸染付焼・染付窯屋 眞窯

白色の素地に酸化コバルトを主原料とした顔料の呉須で絵付けをし、透明の釉薬をかけて焼き上げる瀬戸染付焼。その伝統的な技法を継承しつつ、新たな感性で暮らしに寄りそう器づくりを行なっているのが1919年創業の窯元、染付窯屋眞窯です。その四代目となる加藤真雪さんが作陶を始めたのは、今から14年前。それまでは商社で陶磁器や漆器などの販売に携わっていたそうですが、国内外のありとあらゆる焼きものに触れるなかで、眞窯の魅力を再発見したと言います。
「当時、伝統的な産地のものは比較的オーソドックスで、シンプルでモダンな眞窯のデザインの良さを改めて感じました」
繊細なラインのみで構成された絵柄や、染付けとしては異端という釉薬を使用しないマットな仕上げなど、眞窯ならではのデザインを生み出したのは、三代目の加藤眞也さんと加藤美穂子さん。
「父や母のデザインは何十年も前のものでもどこか新しく、今も人気があります。絵付けはシンプルであればあるほど難しいのですが、そんなふうに長く愛されるデザインの器をつくっていくことは、私の目標のひとつでもあります」

染付特有の技法、ダミ(濃み)を駆使して、1枚1枚丁寧に絵付けをする加藤真雪さん。「伝統工芸はその魅力を伝えていくことも大切」との想いから、SNSでの発信や作品展なども精力的に行なっています。

また、デザイン性とともに多くのファンを魅了するのが、白い素地と藍色のコントラストです。数ある土や釉薬、呉須の中から何を選ぶのか、それらをどう組み合わせるのか、何℃でどのくらいの時間、焼成するのか。技術の鍛錬とさまざまな工夫の積み重ねが、その美しさをつくり出しています。
瀬戸市の東北部に位置する緑豊かな街“しなの”。窓から心地よい風が入り、鳥のさえずりが聞こえる工房で、絵付けの様子を見学させていただきました。真雪さんが好んで用いるのが、“ダミ(濃み)”という染付特有の技法。太く大きな筆にたっぷりと呉須を含ませ、下書きに合わせて筆先から流し出すと、呉須が素地に吸い込まれていきます。
「濃淡をつけるのに適していて、この先も残していきたい大切な技法です。私は花をモチーフにすることが多いのですが、ダミで花びらを描くと、とても自然な雰囲気に仕上げることができるんです」
精巧な筆使いで丁寧に描かれるのは、凛とした佇まいが美しい木蓮やコブシなどの花々。絵柄だけでなく、大胆に余白を取った構図も目を引きます。
「暮らしの器は使っていただいて完成する、という思いがあるので、料理を盛り付けた時にどう見えるのかを考えながら絵の配置を決めています」
今後は、抹茶碗や壁の装飾など、さまざまなアイテムに取り組んでいきたいとのこと。そんな挑戦の1つひとつが、瀬戸染付焼を次の世代へとつないでいきます。

白と藍色のコントラストが美しい眞窯の器には、手仕事ならではの温もりが宿ります。「使うことで完成する」という真雪さんの言葉通り、ふだん使いができる暮らしの器として活躍してくれます。

染付窯屋 眞窯

愛知県瀬戸市中品野町330

眞窯四代目 加藤 真雪さん

三代目・加藤真也さん、加藤美穂子さん、2人の職人さんとともに作陶に励む日々。器づくりの工程を見てみたいと、海外から工房を訪れる人もいるのだとか。

名古屋から世界へ発信する“品格”

洋食器ブランド・ノリタケ

日本の中央に位置し、東西へのアクセスに優れた名古屋では、地の利を活かして自動車をはじめとするさまざまな製造業が発展しました。そんなものづくり王国・名古屋で誕生し、日本の近代陶業の先駆けとなったのが、120余年にわたって暮らしを豊かに彩る高品質な洋食器をつくり続けるノリタケです。
その歩みは、1876年、森村市左衛門が東京銀座に森村組を創業し、弟・豊をニューヨークに送り出して輸入雑貨店・モリムラブラザーズを開いたことから始まります。苦労をしながらも、日本の花瓶や飾り皿などの陶磁器が好評を博したことで商売は徐々に上向きになり、将来性を確信した市左衛門。
1889年に豊と訪れたパリ万国博覧会で欧州から出品されている陶磁器の完成度の高さに感銘を受け、1894年にニューヨークの取引先専門店からのアドバイスもあって、白く美しい洋食器をつくろうと決意します。
そして、1904年、愛知郡鷹場村大字則武に日本陶器合名会社(現・ノリタケ株式会社)を創立。白色硬質磁器の製造に取り組みますが、洋食器に求められる厳しい均一性の実現は、困難を極めました。決意から20年もの歳月を経て、1914年に日本初のディナーセットがようやく完成。この成功を機に、世界的な洋食器ブランドへと飛躍を遂げていきます。

コレクターズアイテムでもある「オールドノリタケ」(左2点)の芸術性の高いデザインに敬意を表し、現代風にアレンジした「オマージュコレクション」(右)。

コレクターズアイテムでもある「オールドノリタケ」(下2点)の芸術性の高いデザインに敬意を表し、現代風にアレンジした「オマージュコレクション」(上)。

桜の名所・吉野山から名付けられた「ヨシノ」はノリタケを代表するシリーズのひとつ。1931年の「シリル」発売以来、歴代のデザイナーがアレンジを加え、「ノーウィッチ」「サクラ」「ミヨシ」「ヨシノ」と5代にわたって大切に受け継がれてきました。

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1.日本初のディナーセット「セダン」。ノリタケの歴史は、日本の洋食器の歴史でもあります。
2.ボーンチャイナ(左)は温かみのある白さ、白色硬質磁器(右)はやや青みのある清々しい白さが特徴。
3・4.ノリタケの工程では、筆で素地に画を描く「素描き」をはじめ、機械化できない繊細で高度な手仕事も存在します。

ノリタケの原点とも言える、白さへのこだわり。1932年には、技術とノウハウを結集して、日本で初めてボーンチャイナの製造に成功しました。食器事業部長・片田智之さんにお話を伺うと、白くなるほど焼きものづくりは難しくなる、とのこと。
「白くするためにカオリンという原料を使用するのですが、変形しやすい性質で、私たちの言葉で言うと〝焼き腰が弱い〟。白さを維持しながら均一に焼き上げるには、調合や焼成の高い技術が必要です」
また、独特の優美さを放つ色彩豊かなデザインや、金彩や盛上などの繊細な技法もノリタケの食器の魅力。長い時間の中で培われてきた数々の職人技は、貴重な財産として継承されています。
「ただ、伝統を次代につなぐだけでなく、世の中のニーズやトレンドにも常に注目しています。120年以上の歴史の中で、変わり続けてきたからこそ今があるので、その時代のお客様に評価していただけるものをお届けしたいと考えています」
そんなノリタケが最もこだわっているもの。それは〝品格〟だと片田さんは語ります。
「高い品質を確保した上で品格のある食器をつくる。明確な基準はありませんが、お客様がパッとご覧になった時に、何かいいよね、何か素敵だよね、と感じる、その〝何か〟が品格なのだと思います」
数値化することができない価値を大切に育んでいく。ノリタケの食器が世界を魅了し続ける理由はそこにあるのかもしれません。

ノリタケ株式会社

名古屋市西区則武新町三丁目1番36号

食器事業部長 片田 智之さん

色合いや質感が変化する窯変釉を活かした
スタイリッシュなシリーズ「オリッジ」。

上質な白の風合いと優しいフォルムが魅力の「クレマンス」は、
料理の楽しさを五感で楽しめる器。

立体的な白盛りや銀彩・金彩が美しい「しろつめくさ」。
伝統の職人技が豊かなひと時をもたらします。

フランク・ロイド・ライト「インペリアル・キャバレー」。
建築家のフランク・ロイド・ライトが帝国ホテルのためにデザインしました。

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色合いや質感が変化する窯変釉を活かした
スタイリッシュなシリーズ「オリッジ」。

上質な白の風合いと優しいフォルムが魅力の「クレマンス」は、
料理の楽しさを五感で楽しめる器。

立体的な白盛りや銀彩・金彩が美しい「しろつめくさ」。
伝統の職人技が豊かなひと時をもたらします。

フランク・ロイド・ライト「インペリアル・キャバレー」。
建築家のフランク・ロイド・ライトが帝国ホテルのためにデザインしました。

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おすすめスポット

瀬戸染付工芸館

瀬戸染付をテーマに、研修生による作業風景の公開、歴史的名品の企画展示、染付(絵付け)体験などを行なっています。市内で唯一残された古窯も必見です。
愛知県瀬戸市西郷町98番地

瀬戸蔵ミュージアム

せとものの大量生産で活気のあった昭和30~40年代の瀬戸の町を体感。約2,000点の資料を陳列した瀬戸焼回廊では、1000年に及ぶ瀬戸焼の歴史を学ぶことができます。
愛知県瀬戸市蔵所町1番地の1 瀬戸蔵内2F・3F

名古屋陶磁器会館

名古屋絵付けと呼ばれる絢爛豪華な絵付けが施された歴史的陶磁器を展示。1932年竣工の建物は国登録有形文化財に指定され、名古屋の名所となっています。
名古屋市東区徳川一丁目10番3号

ノリタケの森

ノリタケが創立100周年の記念事業の一環として、地域の皆様への感謝を込めて創立の地にオープンした産業観光施設。ノリタケミュージアムをはじめ、絵付け体験やショッピングなどを楽しめます。
名古屋市西区則武新町三丁目1番36号