土地が培ってきた歴史を、未来へと引き継ぐ。人々がその風景と文化を大切に守ってきた地域で分譲マンションを手掛けてきた〈グランドメゾン〉。長い時間の中で自然と人が親しく過ごしてきた同地の物件に込めた作り手の想いと、その場所で日々新たな記憶を重ねている方々の声を聞いた。

時間が育んだ地形と
文化とともに暮らす。
大阪市の北は中央区より南は住吉区付近まで、11kmに細長く広がる「上町台地」の歴史は深い。縄文時代には湾に囲まれた半島であり、古代人にとっての数少ない居住地だったという。その北部(現在の中央区)には645年の大化の改新に伴い難波宮が設置され、また16世紀には豊臣秀吉の大阪城築城により寺町としての「上町」が形成され、政治・経済の中心として機能してきた。坂道の景観が印象的な街には、現在も寺院や屋敷とともに多くの都市公園と学校、美術館などの文化施設があり、都心部とは思えないほどゆったりとした空気が流れる。

この地で20年以上も〈グランドメゾン〉を展開してきた積水ハウスの大阪マンション事業部事業開発室の宮﨑大介さんは「古くから人々の生活が営まれてきた場所であり、強固な地盤である上町台地は、大阪の豊かな歴史と自然を住まいに取り込める希少なエリア」と語る。難波宮跡の南東に位置する「グランドメゾン上町一丁目タワー」では、東側に面した寺山公園とつながる緑地が全面積の半分以上を占める。積水ハウスの大阪マンション事業部設計室の辻岡壮亮さんは、こうした自然環境の豊かさをその設計に活かすことを意識したという。

「マンション北側のアプローチは、誘われるような並木道のアプローチを設けました。そのゲート部分には大きな自然石を象徴的に配し、ひとたび中へ入ると静かで落ち着いた緑地を散策できるように計画しました。また、隣接の公園では子供たちが遊具で遊ぶ様子が感じられ、風景の中で静と動のグラデーションをつくることを意識しています。またマンションの壁面にも緑化を行い、遠くから建物を見ても緑と窓に映る青い空が眺められ、いつも『わが家』を感じていただけるようにと考えました」


長堀通りを挟んで南の清水谷町にある「グランドメゾン清水谷オーナーズハウス」もまた、南側に広がる清水谷公園の植生が存分に眺められる三方角地という好立地にある。設計を担当した積水ハウスの大阪マンション事業部設計室の前田孝二朗さんは、このエリアの長い歴史が育んできた特有の地形を大きく活用することを心がけたという。

「グランドメゾン清水谷オーナーズハウスが建つ土地は、大阪城の外郭だった惣構えの南部にあたります。隣の空堀町という地名のとおり、かつて大阪城の外堀だったこの地域は、堀跡の窪地をまたぐように街が形成されていて坂が多い。この物件も南側の公園が断崖の斜面に大きく広がる形になっているので、マンションの4階くらいまでリビングから公園の木々を借景として楽しめます。その魅力を存分に活かすため、南側にはバルコニーや手すりを排除して、サッシュの天端を天井高に合わせた大きな開口部から、視線が自然と上を向くよう工夫しました。ソファに腰掛けて、四季折々の風景をゆっくりと味わっていただきたいですね」

日常の生活の時間を大切にする
人々の街。
現在の大阪市中央区法円坂にあったとされる難波宮は、日本最古の都城のひとつ。古の歴史を感じさせるこの地から歩いてすぐのビルに、メキシコからやってきたアントニオ・ロペス・ゴメスさんがメキシカン・レストラン「Avocados」を開いたのは2021年のこと。
「当時、covid-19の影響で働いていたレストランが閉店になって困っていたところ、このビルでインターナショナルスクールを経営している兄弟が一階の物件を貸してくれることになったんです」


本格メキシコ料理を出すカフェのお店
AVOCADOS 店主
トニーさん
そこでトニーさんがやりたかったのは、「本格メキシコ料理」を出すカジュアルなカフェ。
「日本にあるメキシコ料理店のほとんどが、『テックス・メックス』などのアメリカンスタイルのメキシカン。脂っぽくてしつこいイメージですが、古くから伝わる伝統的なメキシコ料理はナチュラルでヘルシーなんです。私の故郷はオアハカの人口300人ほどの田舎の小さな村で、祖母はレストランを営んでいました。昔から伝わってきた料理文化を、家族から学びました」

生エビとトマト、玉ねぎとなどを多数の調味料で仕上げる「セビチェ・デ・カマロン」ほか、他店ではなかなか食べられないメニューを求めて訪れる客層は地元の人々から観光客まで幅広い。インターナショナルスクールの子供たちも毎日、手を振ってトニーさんに挨拶する。

「開店当時は飲食店にとってはとても厳しい状況でしたが、ご近所の方々が食べに来て助けてくれました。日常的に来てくださる常連のお客様も多く、上町は親しい人付き合いのある街だと感じています。私の地元に『テキヨ(tequio)』という言葉があります。『共同奉仕、助け合い』という意味です。ここ日本でもその気持を大切にしていきたいと思っています」

難波宮跡から上町筋を下ること数分の「Casa Olearia PACE(カーサ・オレアリア・パーチェ)」も、イタリアで古くから培われた食文化を伝えてくれるオリーブオイルの専門店。オーナーの森尾宮枝さんはかつてイタリアで暮らしていた頃、それまで意識したことのなかったエクストラヴァージン・オリーブオイルの味の違いを知ってその魅力にハマり、「好きが高じて」大阪では稀な専門店をオープンした。


「日本の人たちが林檎や梨を買うときに品種ごとの味の違いを知っているように、イタリアではオリーブオイルの品種や早摘み・遅摘みなどの違いを楽しむ文化があります。肉をよく食べる地域ではハーブの香り豊かなもの、魚を食べる地域では苦みが少なくて香りがしっかりしたものが好まれる。そんな風に料理に合わせて、ワインのように味の違いを気軽に楽しんでいただきたいですね」

店内にはイタリア現地の多様な生産者が作るオリーブオイルの稀少なボトルが並び、幅広い味を少量ずつテイスティングして好みを確かめながら買い物ができる。マイボトルを持参して、量り売りのオイルを購入する常連客も少なくないとか。

「上町は歩いて心斎橋に行けるくらいの都会なのに、どこか昔ながらののどかな雰囲気があります。住人の方々も『お肉はここで、お野菜はここで』と決めて地元のお店で買い物される方が多くて。実際、このエリアには個人経営の専門店がすごくたくさんあるんですよ。私が店をオープンしたときも、ご近所の皆さんが『ここでお魚を買ったら良いよ』なんて教えてくださったり。日常の生活の時間を大切にする、心のゆとりを持っている方が多い街だと感じています」



