クリニックの事業承継「成功」の視点<医療法人編>
経過措置型から持分なしへの移行や「承継者」の違いによる留意点を理解しよう!

税理士

大田 篤敬

ビジネスサポート大田事務所 所長

昭和63年に一人医療法人の設立が認められ広がった持分ありの医療法人が約25年を経た今、事業承継の時期を迎え、相続対策も含め問題となっています。
特定医療法人や社会医療法人への移行や、出資持分のない医療法人への移行も有力な方法として、検討することが重要です。
今号では、クリニックの事業承の視点<医療法人編>を紹介します。

1.医療法人の事業承継の基本

法人クリニックの事業承継のポイントについて解説する前に、その前提となる医療法人(病院を含む)の承継について説明します。

平成19年の第5次医療法改正により、いわゆる"出資持分の定めのある医療法人"の新設は認められないこととなりましたが、それまでの"出資持分の定めのある医療法人"については、「経過措置型医療法人」として「当分の間」、その存続が可能となっています。
厚生労働省の統計によると、平成25年の全国の医療法人数は48,820で、そのうち経過措置型医療法人数は41,903となっています。ちなみに出資持分の定めのない医療法人は6,525となっています。
昭和63年に一人医療法人の設立が認められ広がった持分ありの医療法人が約25年を経た今、事業承継の時期を迎え、相続対策も含め問題となっています。
事業承継は、その承継者によって、

①後継親族
②勤務の医師
③第三者に譲渡
の3つに分けることができます。また、クリニックから大病院に成長している場合は、医療法人の形態変更も検討材料になってきます。特定医療法人や社会医療法人への移行や、出資持分のない医療法人への移行も有力な方法として、検討することが重要です。

2.医療法人の形態変更の検討の重要性

経過措置型医療法人は、配当が禁止されていることから内部留保が増大し、その出資持分に対する相続税の負担が大きくなっている傾向にあります。

この場合、国税庁長官の承認を受け特定医療法人に、また都道府県知事の認定を受け社会医療法人に、法人形態の変更 を検討することが重要です。法人形態の変更は、個人財産がまったくなくなるイメージをお持ちの経営者が多いのですが、そんなことはありません。また、最近では、一般の出資持分の定めのない医療法人への移行が、有力な相続対策として注目されています。
出資持分のない医療法人への移行は、公共性、公益性の確保のため、厚生労働省が推進しているのですが、移行時に贈与税の課税関係が生じることから、専門家の間ではあまり検討されてこなかったという背景があります。しかし、贈与税の納税主体が個人ではなく医療法人そのものであることや、役員等における親族の割合を3分の1以下にするなど、一定の要件を満たせば課税関係をクリアできる場合もあり、規模と内容によっては有効な相続税対策と考えます。

3.「持分なし医療法人」への移行は今がチャンス

平成26年10月1日から平成29年9月30日までの3年間限定で税制優遇措置や低利の融資などを受けられます。

■移行計画の認定制度と税制措置の概要

相続人が持分あり医療法人の持分を相続または遺贈により取得した場合、その法人が移行計画の認定を受けた医療法人であるときは、移行計画の期間満了まで相続税の納税が猶予され、持分を放棄した場合は、猶予税額が免除されます。
また、出資者が持分を放棄したことにより、他の出資者の持分が増加することで、贈与を受けたものとみなして他の出資者に贈与税が課される場合も同様です。

①移行計画の認定制度
移行計画の認定制度が実施される期間は、平成26年10月1日から平成29年9月30日の間の3年間です。
持分なし医療法人への移行を検討する医療法人は、この期間内に移行計画を厚生労働省へ申請し、認定を受けてください。
②移行の期限
移行計画の認定を受けた医療法人は、認定の日から3年以内に持分なし医療法人へ移行してください。

■移行期間中に相続・贈与が発生した場合

①納税猶予の手続き
相続税・贈与税の申告の際、税務署で納税猶予の手続きを行うことができます。
②猶予税額免除の手続き
移行期限までに出資持分を放棄すれば、猶予税額の免除の手続きを行うことができます。
注)納税猶予期間に出資持分の一部または全部の払戻を受けた場合は、猶予税額は免除されず、猶予税額と利子税を併せて納付しなければなりません。

■融資制度について

独立行政法人福祉医療機構による経営安定化資金
◆移行計画の認定を受け、持分なし医療法人への移行を進める医療法人において、出資持分の払戻が生じ、資金調達が必要となった場合、独立行政法人福祉医療機構による新たな経営安定化資金の貸付けを受けることができます。
◆貸付限度額:2億5,000千万円
償還期間:8年(うち据置期間1年以内)
◆貸付条件
・国の移行計画の認定を受け、持分なし医療法人への移行期間中の医療法人であること。
・資金の貸付けにあたっては、審査を受けていただく必要があります。
・通常の「経営安定化資金」との併用はできません。
注)貸付けの詳細については、独立行政法人福祉医療機構にお問い合わせください。

4.経過措置型の継承でおさえておくべき要点

経過措置型医療法人の事業承継を進める際、法人形態の変更ではなく、経過措置型医療法人として事業承継を検討するケースが多いと思います。そのポイントを以下に承継対象者別に整理しました。

成功の視点1 後継親族に継承する場合は相続対策に留意する!

経過措置型医療法人で、親族の後継者がいる場合は、「出資持分」の相続税をいかに軽減するかにかかっています。そのためには、連年贈与(評価額500万円分で、約53万円の贈与税)や出資持分の譲渡(20%の譲渡所得で済む)など、事前の相続対策が重要になります。

成功の視点2 勤務する医師に継承する場合はその条件設備が重要!

ご子息等に承継者がいない場合の方策の1つとして、勤務する医師に承継するケースが考えられます。
近年、こうした形の事業承継が増加傾向にありますが、医療法人の場合は、まだ案件も少なく、ケースによって留意すべきポイントも異なります。まずは、事業承継の条件の整備(退職金の額や役員報酬の設定など)を事前に行うことが重要となります。

成功の視点3 第三者への譲度では専門家の指導の下で条件等を設定する!

第三者への譲渡による事業承継は、一般に税理士やコンサルタント会社が仲介に入ります。現在の医療法人の資産査定やのれん代(超過収益力)の設定をベースに、具体的な対応や条件を固めることとなります。
承継の形としては、「出資持分の譲渡」が一般的です。社員間の出資持分の譲渡については、昭和57年6月の浦和地裁判決で「定款に違反しない限り容認される」とされ、法人からの持分払い戻しではないことから、配当金禁止にも抵触しないと考えられます。譲渡の前提として、承継前に新しい承継者は、医療法人の社員としての身分を取得しておく必要があります。社員資格の取得には、出資金の有無は問われないので定款に基づく社員総会での議決だけで取得できます。
留意点は、医療法人が行政のチェックを受けるため、行政機関への事前の内容説明が大切になります。医療法人格の売買の禁止規定との絡みもあり十分な根回しが必要です。その上で、前理事長への退職金の金額の算定と非常勤理事としての役員報酬額の設定、従業員
の引き継ぎや隠れ債務や医療事故、過去の診療報酬の不正請求の有無等の確認も大切になります。
ただし、これらは都道府県によって、取扱いに差があることから、事前に所轄都道府県の担当者やこれらのことに精通した税理士、コンサルタントと十分に協議の上、進めることが重要です。

まとめ

株式会社の最高決議機関である株主総会にあたる機関は、医療法人では社員総会になります。今回の「認定医療法人」の制度は、その社員総会の構成について旧来の同族関係を維持したままで移行が可能な事が、今までの社会医療法人や特定医療法人の認定、認可条件と大きく異なる点です。
この制度は、今までの税法の常識を覆した制度になっていますので、病院を中心に資産価値が高くなって相続税の負担が大きくなった医療法人では検討に値する制度です。
(2014年10月現在)

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