クリニック経営に役立つ数字の見方!
効率的に利益を得ていますか?
─④損益分岐点分析・成長性分析─

税理士

大田 篤敬

ビジネスサポート大田事務所 所長

クリニックの発展を考える意味で、成長性分析は大切です。その成長性を示す指標が「対前年医業収益比率(%)」です。最近は成長だけでなく低下するケースも増えています。その原因を明らかにしながら、クリニックの経営改善の手を打たなければなりません。今号では損益分岐点・成長分析について説明します。

1.損益分岐点分析とは?

「損益分岐点分析」とは、クリニックの経営が成り立つための最低限の収入金額(売上高)を明らかにすることです。

教科書的な解説ですが、その指標となる「損益分岐点医業収益高(月)」は、以下のような算式で計算します。

平成23年版TKC医業経営指標(M-BAST)の「要約損益計算書」(図表)をもとに、実際に損益分岐点分析を行っていきます。この図表は、個人の無床診療所で院外処方のクリニックのデータを集計したものです。
後述しますが、集計の母体が「法人」か「個人」かによってそれぞれの数値は大きく異なりますので注意が必要です。

さて、全診療科の平均値を見ると、医業収益は85,441千円、税引前当期利益は30,343千円となっています。なお、給与費のなかに専従者給与が4,554千円含まれています。
まず変動費(収入に連動して使用量が変わる経費のこと)を見ると、材料費・委託費が12,377千円、構成比は14.5%となっています。この構成比の数字は「変動費比率」と呼ばれています。これは、最初に解説した算式の分母にある[変動費÷医業収益高]の数字となります。算式の分母は、[1-(変動費÷医業収益高)]となっているので、それを計算すると[1-0.145=0.855]となります。この数字は「限界利益率」と呼ばれています。つまり、変動費比率の逆数です。要約損益計算書では、「(限界利益)73,063千円」「構成比85.5%」と表記されています。
一方、分子の固定費(収入高に関係なく必要な経費)は、医業費用54,690千円から変動費12,377千円を差し引いた42,313千円となります。この固定費を12(12か月)で割ると、月々の固定費は3,526千円であることがわかります。
これを算式のように、限界利益率で割り戻すと、[3,526÷0.855=4,124千円]となり、これが変動損益計算書から導き出した「損益分岐点収益高(月)」となります。

経営分析表(参考)を見ると、全診療科の損益分岐点収益高(月)は、「4,161千円(月)」となっていて「4,124千円(月)」とは若干ですが誤差が出ていますが、これは端数処理の関係で生じたものと考えられます。あまり細かいことは気にせずに大まかに数字を捉えることも大切です。
いずれにしても、この数字が示していることは、平均85,411千円の医業収益があるクリニックで、専従者給与4,554千円(月割額380千円)を生活費とみなし、最低限、経営が成り立つ医業収益額は、月額4,161千円であるということです。

2.法人と個人の経営分析表の数字の違い

医療法人と個人クリニックの損益分岐点分析の科目に含まれる数字に注意が必要です。

医療法人の損益分岐点分析の数字には、固定費としての役員報酬のなかに院長の役員報酬が含まれています。平成23年度M-BASTでは、法人、無床、院外処方のクリニックの集計として、役員報酬の平均が38,549千円となっています(この集計された役員報酬の数字には理事長・院長だけでなく他の理事の報酬も含んでいる)。ちなみに損益分岐点収益高(月)は、10,372千円です。 しかし、個人クリニックには、院長の給料相当額は含まれていません。この点は、個人クリニックの経営分析指標を見る場合に注意しなければなりません。個人クリニックの場合、それは専従者給与で生活するものとして損益分岐点収益高を計算しています。したがって、私は個人クリニックの損益分岐点を計算する場合は、月々の生活費などの義務的支出を加味して計算するようにしています。 院長の給料相当額でまかなわれる義務的経費としては、次のようなものがあります。

これらの金額は、推計すると年間15,000千円ほどになります(生活費月200千円として、税金が所得税、住民税併せて約12,000千円程度必要です)。これを加味したところで、損益分岐点収益高を再計算してみましょう。
[{固定費(42,313千円)+義務的経費(15,000千円)}÷12=4,776千円]が分子の金額(修正後の月額固定費)となります。そこから算式にしたがって限界利益率で割り戻すと、[4,776千円÷0.855=5,586千円]
となります。この数字が個人クリニックで、生活までを含めた最低限の売上高を示す修正後の損益分岐点収益高(月)となります。
これについての詳細は、拙著『クリニック経営読本』(耕文社)の「計数管理の大切さと無責任な『会計専門家』のアドバイス、損益分岐点分析のポイント」をご参考にしていただければと思います。
このように、個人クリニックの損益分岐点収益高(売上高)は、表面に出ている数字より高くなっているので注意してください。また、色々な経営分析表の数字も実際計算してみると、意外と簡単に計算できるものです。数字に慣れていただく意味でも院長先生自らで計算して、その意味を考えるようにすることが大切です。毎月、目にしている財務諸表がもっと身近な存在となることでしょう。

まとめ

クリニックの発展を考える意味で、成長性分析は大切です。その成長性を示す指標が「対前年医業収益比率(%)」です。私たちが、クリニックの経営分析を行う際、①先ほどの損益分岐点分析のように、M-BASTを使用した同業他医療機関との比較と、②そのクリニックでの時系列の推移の両方から分析をします。
同業他医療機関との比較では、外のクリニックと比較して医薬品や材料の仕入、検査委託費や人件費等の医業経費に無駄がないかどうかをチェックします。クリニックでの時系列の推移を表す、対前年の医業収益の伸び率(或いは低下率)は、一番シンプルですが、
一番正確にクリニックの現状を表す数字です。最近は成長だけでなく低下するケースも増えています。その原因を明らかにしながら、クリニックの経営改善の手を打たなければなりません。
これらの数字に着眼して、クリニックの成長、発展に役立ててください。
(2013年4月現在)

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