クリニック経営に役立つ数字の見方!
自院の支払能力を把握していますか?
─③安全性分析─

税理士

田島 隆雄

田島会計事務所 所長

自院の支払能力が健全になるように、事前に対応策等を講じておき、常に安心して医療サービスを提供できるような環境を整備しておくことが非常に大切となります。今号では、自院の支払能力について説明します。

1.安全性分析の必要性

自院の支払能力が健全になるように、事前に対応策等を講じておくことが非常に大切です。

安全性分析とは、自院の支払能力を貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)から判断するものです。いわゆる"ストック面"と"フロー面"の両面から見て、支払能力の健全性を判定します。
一般に、院長先生は日々の診療に専念しなければならないので、自院の支払能力や資金の過不足に注意を払う時間がなかなか取れないのが実状だと思われます。そのため、支払いに関する業務等は事務長、もしくは受付事務スタッフに任せてしまうことがほとんどではないでしょうか。しかし、万一、資金不足等が生じた場合、その担当者が適切に対応することはできません。そこでは院長先生が何かしらの意思決定が必要となるからです。
つまり、定期的に安全性を分析し、自院の支払能力が健全になるように、事前に対応策等を講じておき、常に安心して医療サービスを提供できるような環境を整備しておくことが非常に大切となります。

2.安全性分析の具体的な指標

安全性分析は、企業が倒産する危険度を示す指標とも言えます。

安全性分析をストック面(B/S)から進めるものに、「流動比率」と「固定長期適合率」があり、フロー面(P/L)からのものに「経常収支比率」、ストック・フローの両面にかかるものに、「借入金対月額医業収益高倍率」があります。

上記のように支払能力とは、資金の流れ(動的現象)と、今後どのような流れが想定できるのか(静的現象)の両面から判断していきます。
次にそれぞれの経営分析値が具体的に何を現しているか解説します。

(1)流動比率

流動資産には、「現預金」「医業未収金」「たな卸資産」などが該当します。流動負債には「薬品仕入未払金」などがあります。クリニックの場合、流動負債が比較的、少ない傾向にあり、一般に支払余力は5倍から6倍くらいとなっています。ポイントになるのは、それぞれの中身の問題をどれだけ把握するかであり、過剰あるいは不足となっていないかなどを分析します。当然ながら、この比率は100%超とならなければなりません。

(2)固定長期適合率

クリニックの設備投資と資金調達源泉を測定するものです。計算式の分子には、クリニックの「建物」「医療機器」「車輌」などの固定資産が入ります。分母は、自己資本(元入金とその後の利益の留保額)と固定負債(長期借入金)で構成されます。したがって、適合率は100%よりも低い比率が理想です。一般に60%~70%ぐらいが健全といえます。

(3)経常収支比率

クリニックの支払能力は、その収益力に大きく影響することになります。経常収支比率とは、経常収入と経常支出の対比によって分析します。この比率は、100%を上回ることが必要不可欠であり、通常150%~170%程度が健全といえます。そのためには、経常支出の1.5倍超の経常収入が必要となります。

(4)借入金対月額医業収益高倍率

この指標は、月当たり医業収益高の何倍の借入金があるかを診断するものです。この数値(倍率)が大きいほど、資金繰りを圧迫していることを意味します。クリニックの場合は、医業収益が比較的、安定傾向にあるため、一般に4倍から5倍くらいとなっています。倍率が高い場合は、過大な借入金となっていないか、または医業収益高が低すぎるのではないかなどの課題が想定できますので、適切な対応策を講じることが求められます。

3.安全性を改善するためには

これまで解説した各指標は、現状の課題を発見するものです。課題を発見したら、その改善策を検討し、行動することが重要です。

クリニックのB/S・P/Lの改善イメージを提示すると以下のようになります。

なお、個人クリニックの場合は、診療所の資金と院長個人の生活資金が混合している側面があり、資金の区分に困難をともなうこともあるので注意が必要です。
次に改善策の一例、考え方などについて解説していきます。

流動比率の改善
流動負債のなかには、しばしば短期借入金があるケースが見受けられます。しかし、運転資金が不足するケースというのは少ないので、長期借入金に借り換えをすることをお勧めします。

固定長期適合率の改善
固定資産・繰延資産は減価償却をとおして年々減少していくものです。一方、固定負債である長期借入金も返済を通じて年々、減少していきます。そのなかで重要になるのは、利益(経常利益)を上げ、内部留保し、自己資本を強化することです。院長先生の生活資金に流出してしまう可能性も十分、考えられるので、計画的にコントロールすることが大切です。

借入金対月額医業収益高倍率の改善
医業収益高を高める増収対策と同時に余分な過剰投資を避けることが重要です。

経常収支比率の改善
クリニックの収益力、つまり医業収益力を高め、医業費用を極力抑えることが必要となります。この結果、経常利益(個人の場合は院長所得)が多くなれば、おのずと支払い能力は強化されていきます。

まとめ

クリニックの支払能力が健全かどうかは、これからの持続的な経営、発展に不可欠なものです。また、自院の支払能力に不安を抱えたままで、質の高い医療サービスを提供しようとしても、難しいと思います。
こうしたことからも自院の安全性を定期的に確認することが重要です。
(2013年1月現在)

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