人件費の適切なコントロールが大切

税理士

岩田 修一

岩田会計事務所 所長

近年の医業経営環境の急激な変化にともない、診療科目の種別を問わず明確な経営ビジョンを持たないクリニックが整理淘汰され、経営に行き詰るクリニックも数多く見られるようになっています。一般社会では「格差社会」という言葉が話題となっていますが、クリニックにおいても「格差」がはっきりと目に見えてくる時代であることを肝に銘じなければなりません。
今月号では「整形外科診療所」についての経営動向とその対応策を解説します。

1.整形外科診療所の診療科としての特徴

整形外科も外科と同じく来院する患者数が経営に直結する診療科です。

整形外科は、骨、関節、脊髄神経に関する筋骨格系の疾患を治療する診療科です。
整形外科診療所は、外科診療所と同じように手術件数が減少し、機能回復を目的とする処置や理学療法を中心とした医療機関に変化してきています。初診・検査後に牽引や消炎鎮痛などの処置により治療をすることになりますので、再診患者割合が高く、診療報酬点数は一般外科よりも低くなります。また、牽引や器具等による消炎鎮痛、ギブスなどの処置スペースが必要となり、医療スタッフも他の診療科より余分に配置する必要があります。また、整形外科も外科と同じく来院する患者数が経営に直結する診療科なので、待合室、駐車場のスペースを十分確保する必要があるなどの特徴があります。

2.主な指標の5年間の推移と分析

平成17年度版 M-BASTの要約変動損益計算書の数値を基準(100%) としたその主要項目の5年間の推移を見ると図表のとおりです。

これを見ると、当診療科においては後述する通りの高齢化の進展等のの事業環境趨勢的な傾向を踏まえ、近年の医業収益の推移は概ね安定基調にあるものと認識されます。またこのなかでも、特に留意すべき点は、「損益分岐点医業収益高」の推移です。「損益分岐点売上」は以下のような算式から導きます。

この整形外科クリニックの場合では概ねバランスはとれているといえますが、一般的には、医業収益が伸び悩むなかで、主として限界利益率が減少する、即ち、変動費である薬品、材料、委託費などの経費が増加傾向にある場合には、医業収益の増収施策と経費削減方策が喫緊の経営課題となるケースが多いことを肝に銘じて医業経営に向かうことが肝要と考えます。

3.経営安定を実現するための対応策

整形外科診療所を取り巻く外部環境の変化に対応した経営課題とその 対応策から、今後の経営安定化に向けた将来展望を列挙すれば以下の とおりです。

(1) 高齢化の進展

厚生労働省が2年おきに実施している「医療経済実態調査」の平成17年に対する平成21年の実績の伸び率は他の診療科比でも大きな伸びを示しています。今後の診療需要は高齢化の進展にともない、増加基調で推移することが見込まれます。また、筋骨格系の疾病は加齢により増加しますが、特に60歳を超えてから患者受療率は急増するといわれていることも大きな要因の1つです。

(2) 競争の激化

整形外科診療所数の増加や2000年から導入された介護保険事業の通所サービス、柔道整復師との競合も激しくなってきており、顧客サービスの差別化の観点からも独自の視点からの経営展開の重要性が益々高まってくるものと思われます。

(3) 増患対策

整形外科診療所は、外科よりも患者1人当り医業収益がかなり低くなります。そのため患者の“数”の獲得が経営上の最大のポイントになります。また、高齢者の患者割合が圧倒的に高い診療科ですから、高齢者の立場に立った患者接遇は訓練し過ぎてもし過ぎることはありません。こうした観点からの医療スタッフの教育・研修が顧客差別化の観点からもこれまで以上に重要になってくると認識すべきです。

(4) 介護保険施設との連携

増患対策の観点からも入所または居宅施設との連携を密にする必要があります。介護福祉施設やケアハウスには、慢性疼痛を訴える患者が多いので、訪問リハビリテーションを実施するなどして、これらの施設との連携を強化することで、患者の支持(顧客満足度の向上)を高めることができます。

(5) 専門外来診療科の設置

慢性疼痛については、ホットパック等の器具による消炎鎮痛では治療に限界がありますので、「ペインクリニック(痛み外来)」を併科して治療の奥行きを深めることも 1 つの方法です。また、「リハビリテーション」にも関連分野として積極的に取り組む必要があるでしょう。

4.「ベンチマーク分析」の重要性

「ベンチマーク分析」はアメリカで生まれた経営管理手法で、「基準点」 という意味です。

「TKC 医業経営指標(M-BAST)」の「時系列データ推移表」(図表)や「平均的財産・損益の構造」(参考)のような業界のパフォーマンスに関わるデータを「ベンチマーク」として集めて分析し、他と比較することは、自身のクリニックのパフォーマンスを実証的、かつ客観的に把握する上で非常に有効です。
「ベンチマーク分析」はアメリカで生まれた経営管理手法です。「ベンチマーク」とは「基準点」という意味で、この語源は土地の測量法に由来するものです。土地の測量で自分の位置を知ることが重要であるように、まず自分のクリニックがどの位置にあるのかを客観的に確認し、ここから具体的な指標、即ち、直接・間接の医療コスト、医師コスト、薬剤関連コスト、利益率等の指標を比較分析(SWOT分析)するなど、経営手法を活用して、経営改善につなげることも重要になります。

まとめ

本号で紹介した整形外科クリニックを始めとして、近年の医業経営環境の急激な悪化に伴い、診療科目の種別を問わず明確な経営ビジョンを持たないクリニックが整理淘汰される時代になってきています。就中、医業経営においては人件費が最大の支出項目であり、同業のクリニックと比較した経営指標の分析などを通じて固定費の適切にコントロールしていくことが肝要です。
(2010年5月現在)

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