病医院の相続・贈与のポイント

税理士

三浦 康弘

赤松会計事務所 所長

長期的な経営計画に相続・贈与は避けて通れません。病医院の経営者として、まずは押さえておきたいポイントを解説します。

1.相続税のポイント

相続税の税率は最大で50%にもなります。病医院の大切な財産を守り、永続的な経営を可能にするため、早めの対策が肝心です。

相続対策の第1歩は、相続税法の規定のうち、「相続税の課税対象から外せるもの」「遺産の評価額を減らせる特例」「相続税の負担を軽くしてくれる特例」を把握し、自身の計画に盛り込んでいくことです。よくある質問とともに解説します。

  • Q-1

    私には診療所と家と少々の株と預金があるくらいで相続の心配はしていないが、知人から全部の財産に対して相続税がかかるわけでないと聞いた。また、相続人として妻と後継者の長男、勤務医の長女、会社員の次男がいる。相続人の人数によって相続税が変わるのだろうか?
  • A-1

    「遺産総額」から下表の項目を差し引いた「正味の遺産額」に対して相続税がかかります。先生にもしものことがあった場合、奥様と3人のお子様の4人で4,000万円プラス5,000万円、計9,000万円が基礎控除額として引かれます。その他の非課税財産についても以下のようになっています。

*1.上記の表は相続税の非課税財産の一部であり、法律で定めてある全てではありません。
*2.法定相続人とは、民法の規定により相続人となれる人をいいます(民887~890)。

  • Q-2

    個人事業で診療所を経営している。長男が診療所を継いでくれることになった。将来的には、診療所の土地・家屋を長男に相続させたい。ただし、相続税が払えるのかどうか心配だ。
  • A-2

    相続税で一番厄介なのは土地です。個人財産に占める土地の割合は高く、自宅用地や事業用地になっていることも多いなど、すぐに換金できない事情もあるため、相応の納税資金が必要となります。
    ただし、土地については「小規模宅地等についての課税価格の計算の特例(措法69の4)」により大幅な評価引き下げが可能となるため、院長先生の診療所とその敷地を長男が引き継ぎ、この特例の特定事業用宅地等に該当すれば最大で400㎡につき80%の評価減が受けられます。
    注意点としては、適用要件が細かく定められているため、適用の判断が難しいことと、複数の土地が対象となる場合には、何通りかの組み合わせも考えられることです。
    さらに、生前の事業承継の仕方によって適用が受けられなくなってしまうケースもありますので、税理士等の専門家へご相談のうえ、有利選択をされた方がよいでしょう。
  • Q-3

    診療所を経営している夫が亡くなり相続の申告をしなければなりません。配偶者には相続税がかからないと聞きましたが本当でしょうか?
  • A-3

    「配偶者に対する相続税額の軽減の特例」があり、配偶者が相続で受け取った財産の額が、法定相続分以下であれば、配偶者に相続税がかからないというものです。また、法定相続分以上相続した場合でも、1億6,000万円まではかかりません。
    配偶者の相続税額からは、次の算式により計算した税額軽減額が差し引かれます。遺産総額にもよりますが、この制度を上手に利用すれば、実際の納付税額を大幅に減らすことができます。

2.贈与税のポイント

思わぬ形で贈与税の課税になってしまうことがあります。

病医院においては、理事長・院長の生前に事業承継をする場合があります。当事者にとっては「院長の名前が変わっただけで他は何も変わっていない」と思いがちですが、物や権利の移転には税金がからんできますので留意してください。

  • Q-1

    確か、100万円くらいまでは贈与税がかからないんですよね?
  • A-1

    相続・贈与に関して、医療関係者から多く聞かれる質問第1位かもしれません。
    贈与税の基礎控除額は「年間110万円」です。仮に同じ年内に子供2人に対してそれぞれ110万円ずつ、計220万円を贈与した場合は、各々に対して贈与税はかからないことになります。
    注意すべき点は「連年贈与」です。
    子供名義の通帳に毎年110万円ずつ預け入れて安心と思っていませんか?
    このように毎年繰り返し贈与することを連年贈与と言います。
    仮に10年間続けたとして1,100万円。税務署からは「1,100万円を1年ごとの110万円の贈与ではなく、有期定期金に関する権利(10年間にわたり毎年110万円ずつの給付を受ける権利)の贈与」とみなされることがあります。その場合には、最初の年に遡って1,100万円に対して贈与税が課されますので、痛い話になります。
    対策としては、連年にしない、金額を変える、贈与するごとに贈与契約を結ぶ、基礎控除額をわずかに上回る贈与にして贈与税の申告をあえてする等が考えられます。
  • Q-2

    病医院などの経営者の名義変更が無償で行われた場合、これまで、前院長所有の医薬品・衛生材料等(棚卸資産)や医療機器・器具備品(減価償却資産)、未収金(債権)の時価総額から、未払金・買掛金等の事業上の債務を差し引いた残額が、新院長である長男に贈与されたものとして取り扱われることになります。つまり、事業用の正味財産の価額に対して、贈与税がかかることになります。
  • A-2

    病医院などの経営者の名義変更が無償で行われた場合、これまで、前院長所有の医薬品・衛生材料等(棚卸資産)や医療機器・器具備品(減価償却資産)、未収金(債権)の時価総額から、未払金・買掛金等の事業上の債務を差し引いた残額が、新院長である長男に贈与されたものとして取り扱われることになります。つまり、事業用の正味財産の価額に対して、贈与税がかかることになります。
  • Q-3

    医療法人で病院を経営しています。私(理事長)個人所有の土地を病院の建物用敷地(医療法人所有)として医療法人に賃貸しています。先日、税務調査があり「借地権の権利金の贈与があったと認定し課税します。」と言われました。法人設立時に近隣相場に合わせて地代を設定し、きちんと支払っていたので問題ないと思っていたのですが・・・。
  • A-3

    借地権の取引慣行がある地域での借地権契約で、権利金の授受がない場合には、法人に権利金の贈与があったとして「認定課税」がされることもあります。
    認定課税を受けないためには、2つの方法があります。
    (1) その土地の価額からみて、権利金の金額分を地代に上乗せし高く設定して(権利金に代わる相当の地代)支払っていく方法。
    *相当の地代はおおむね3年以下の期間ごとに見直しを行う必要があります。また、実際に収受している地代が相当の地代より少ないときは、その差額に相当する金額を医療法人(借地人)に贈与したものとして取り扱います。
    (2) 契約終了時に無償で土地を返還する条件を付して、所轄税務署に医療法人(借地人)と連名で「土地の無償返還に関する届出書」を提出する方法。
    *無償返還とは、今回のケースでは、理事長と医療法人の土地の賃貸借契約が終了した場合に、医療法人が理事長に立退料などを請求することなく「無償で」土地を返還することをいいます。
まとめ

事業承継、病医院の建築・増改築、医療法人設立時には、当事者はそのイベントに集中して、相続税・贈与税に深く関わってくることを見逃しがちです。
また、今回ご紹介した特例以外にも有利な特例(相続税の未成年者控除、障害者控除、贈与税額控除、相次相続控除、外国税額控除)や不利な特例(相続税額の加算、相続開始前3年以内の贈与財産の加算)があります。なお、紹介した特例、基礎控除額等の金額は平成19年現在の法律に基づいています。平成20年以降の税制改正により変更されることがあり得ます。
(2007年12月現在)

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