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懐かしの香が、ゆれる。醤油のふる里、湯浅。―角長 街角を歩いていて、煮しめや焼き魚の醤油がこげる香りがただよってくると急におなかがすいてきた!ということは、ありませんか。古来より、日本人の味覚をかたちづくってきた醤油。その香りに郷愁すら感じつつ、今日も家路を急ぎます。

醤油の起源は鎌倉時代。それは、法燈国師が、宋から持ち帰り和歌山県湯浅町に製法を伝えた、金山寺味噌ではないかといわれています。この味噌の醸造過程で出てきた汁が、そのルーツなのだとか。
醤油も、人といっしょ。暑いも寒いも経験せんと味が出てこんのですよ。―角長店主 加納誠
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天保12年創業。170年続く“角長”。家長は代々世襲で長兵衛を名乗る。5代目は82歳。次期長兵衛、加納誠氏は59歳。家族全員で、その味を守り続けていく。

 醤油は生きもの。向こうもいろいろ考えとるから、こっちもそれなりに対応して考えます。いわば、人と麹の化かし合い。向こうの機嫌をよくしてあげる。
 ひとつ一つの仕込み桶でできたものは微妙にちがう。毎年、気候もちがうし仕込みのときの条件は一回一回ちがうんですから。昔気質な職人は、それが均一になることをめざしたが、私は、上質な醤油であればむしろ変わるのは面白さなのだと思っています。
 醤油は、気温が低くなった晩秋に仕込み始めます。蒸した大豆に細かく砕いた炒り麦を混ぜて麹室(こうじむろ)に寝かせます。やがて熱を持ち大豆が固まってくるのを、ときどきほぐしてやりながら4日間。4日経ったら杉桶に移し塩水を加え、2〜3日から1週間に1度くらいかき混ぜながら、ほぼ1年半、熟成蔵で寝かせます。そして熟成した醤油は布で濃して大釜に移し、薪をくべて良い香りが漂うまでじっくり熱を加え完成させます。
 うちは天保12年創業以来、醸造蔵も杉桶も当時のものを170年間ずっと使っています。蔵の天井や梁には永い年月をかけて自然に住みついた『蔵つき酵母』がいて、これが仕込み桶に降りそそぎ美味い醤油を造ってくれるんですよ。ただ、蔵も桶も永く使い続けていると徐々に傷んできます。特に桶は、たががゆるむと醤油がもれてしまうから、これを締め直してくれる職人の技が必要なんです。ところが、この界隈に昔はたくさんいた職人はもう今はいないのです。
 湯浅は“醸造の香りに生きる町”昭和の初め頃までは、たくさんの醸造蔵が湯浅にあったけれど、江戸時代から今まで続いているのはうちだけになってしまいました。これからも伝統的な醤油を守っていくためには、桶屋職人の協力も必要だし、材料となる味の良い豆や麦や塩の確保も欠かせない。だから、正直な仕事が報われる商売の流れにしなければならない。そして、なにより大切なことは、昔ながらの香りと味の醤油を求めるお客さまがいてくださることだと、いつも思っているんですよ。