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千住 博/Hiroshi Senju 1958年東京生まれ。日本画家。95年ヴェネチア・ビエンナ-レにて東洋人として初めて絵画部門優秀賞を受賞。同年、大徳寺聚光院別院襖絵を完成させる。京都造形芸術大学副学長、同大学国際芸術研究センター所長。画集に『千住博画集 水の音』(小学館)、『大徳寺聚光院別院襖絵大全』(求龍堂)。近著に『千住博の美術の授業 絵を描く悦び』(光文社新書)がある。

芸術はコミュニケーションとイマジネーションの源

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写真千住スペシャルといわれる群青。岩石の不純物を除き砕いて日本の職人が“岩絵の具”に精製。

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写真日本に戻った時の拠点としている仕事場。たとえ過ごす時間は短くても、ご自分の作品はもちろん、骨董品やアートの作品、職人の手仕事による家具などを揃え、美意識の行き届いた空間に作り上げている。

まるで宝石のような絵の具との出会い。

 私が日本画と出会ったのは、高校を卒業する頃。日本画の展覧会で、私の目は「絵の具」に釘付けになったのです。
 日本画の絵の具は“岩絵の具”ともいい、岩石をすりつぶして出来ています。その絵の具の粒子が、会場の照明にきらきらと輝いているのが宝石のように感じられました。そして、この絵の具を使って自分を表現してみたい!と強く願うようになったのです。
 はるか昔、人間は緑青や水晶などの美しい岩石を細かく砕いて顔やからだに塗り付け、災いをふりはらい、勇気を与えてくれるよう願った。その岩石を、絵の具として使ったのが日本画。それだけ人間の本能に近い、非常にプリミティブ(原始的)な表現方法なのです。
 絵画というのは建築物の一部として誕生しました。1万5千年〜2万年前、西ヨーロッパの洞窟に描かれた壁画を調べたところ、その多くが祈りの場所であることが分かった。絵はひとつの場所を優しく癒す空間に変える手段だったわけです。

芸術は想像力と対話力を伝える。

写真 暮らしの中に芸術を―というと身構えてしまう人がいますが、もっと自由に、ご自分の好きな作品を選べばいいと思うんですよ。
 そうして一枚の絵を飾り、家族が「きれいだね」「何を描こうとしたんだろう」と会話を交わす。絵を美しいと感じるには、イマジネーションの力が必要です。さらに感じたことを相手に伝えるという、コミュニケーションもそこに生まれる。
 想像する力、人と分かりあおうとする力。それを伝えてくれるのが芸術の役割。部屋に飾る一枚の絵にも、その力はじゅうぶんに備わっています。
 自分はこれが美しいと思う。それは本当の自分に気付くこと。自分はこんな色が本当は好きなんだ、こういう絵を素敵だと思うんだ、と。
 好きだと思えば、子どもの絵だっていいんです。ちょっとした額に入れて飾ってあげればそれを見るたびに、子どもの心に自信が生まれてきます。自信とは自分を愛する心の土台です。

窓の外の豊かな緑が住まいの選びのポイントに。

 自分を愛するということでいうなら、日本独自の文化を愛する心を伝えてこなかった戦後の美術教育もゆがんでいたのかも知れません。当時の海外での評価に対して「日本画の高い精神性は、外国人に理解されがたい」と考える傾向もあったくらいです。
 私の場合、自分にとって最高の表現手段であり、全霊をかけて打ち込んできた日本画の世界は国境を越えて伝わると信じ、事実その通りになりました。
 大徳寺の襖絵を描かせてもらったのは、三十代の終わり頃。祈りの空間から生まれ、建築とともに発展したのが絵画ですから、これは絵描きにとってルーツともいえる仕事です。
 思いばかりが先走って絵に入り込めなかったとき、ふと甦ったのが高校生の時の感動でした。この絵の具を使って絵を描いてみたい!そのために絵描きになったんだと気付いたとき、自然と絵に向き合えるようになっていたのです。
 あの時、宝石のようだと思った絵の具と、この先もずっと、自分の世界を表現する路を切り開いていくこと。それが私の願いであり幸福の原点です。