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成人の心理を研究する佐藤眞一先生は、「これからの大人には、数やスピードを競う知識より複雑な問いに答えを出す『知恵』が必要」と指摘されます。

大事なのは経験を生かす力。諸問題に対処するために必要な「知恵」の時代が訪れている

 近年「老人力」「鈍感力」など、“新しい尺度”を提案する論説が注目されています。
 「国の成熟度と、必要とされる知能の種類は関係します。国が発展する段階で必要なのは若い頭脳とエネルギーです。しかし現在の日本は成熟期にさしかかっていて、そのなかで生じる社会の諸問題に対処するには、集積された『知恵』が必要なのです」
 一つの価値基準では計れない複雑な現代の社会では、「多様な状況に対処する深い洞察力や理解力、判断力を総合した能力」、すなわち「知恵」が求められるのです。
 「大事なのは、その人がどのような経験をしてきたかであり、経験が積み重なって作られた『思考の内容』です。それが『知恵』となり『品性』となって、人間としての生き方にあらわれるわけです。知識をどのように使うか、過去の体験を目の前の状況にどう対応させるかが、大人の『知恵』ではないでしょうか」
 さらに、経験を生かすような実践的能力は、年齢を経るごとに高まります。
 「知恵に関する洞察力や判断力、コミュニケーション能力などは、『結晶知能』と呼ばれ、学習や経験の積み重ねによって高まります。これこそが大人の知恵を司る脳の働きであり、現代社会に必要なものなのです」

自ら手を挙げて経験を社会に還元する行動が、新たな輪をひろげていく

 佐藤先生は、「知恵」の伝承が重要な社会的課題であることを踏まえて、年長者が自分から若者に話しかけることが日常的に出来るヒントだとおっしゃいます。
 「若者は経験がありませんので緊張し、自分から年長者に話しかけるのは、非常にむずかしいんです。だから、年長者が意識して話しかけるといいんですね。どの社会でも優れたリーダーは、自分から積極的に声をかけます。ただ、違う世代の行動を古い権威や枠組みに当てはめて決めつけようとしないことが大切です。常に経験を分析し、思考を付け加えていかなければいけません。つまり、行動の結果を反省することで、より経験が深まり、人間はさらに成熟していくことができるのです」
 「初めて経験したことを一人で悩んでいても問題は解決しません。だから子育ても介護も、本当は一人で悩むより経験のある人、知恵のある人が『大丈夫だよ』と声をかけてあげられる『場』が必要なのです。コミュニティスペースは、経験のある人と無い人をつなぐ『場』として利用できますよね。」
 「経験のある人=年配の人」と考えがちですが、若くても自らの経験を役立てようとすることが重要なのだと、佐藤先生は付け加えられました。

ポジティブ・ムードで一日を前向きに評価し、少しでも楽しく生きる。

 また、最近の社会の風潮については次のように疑問視されています。
 「若い人には会社で他人とうまくやれと言い、年配者には脳のスピードをあげて若くあれと言う。どちらにとっても無い物ねだりばかりで、みなさんストレスがたまる一方ではないでしょうか。私は、日常生活の中で何か少しでもできたことを自分自身で認めるようにして、自分の内面は自分で守るべきだと思います。そこで、寝る前にひとつでも良かったことを挙げ、ポジティブなムードで一日を終わることを提案しているんです」
 さらに、これから定年を迎える人たちに対しても提案されます。
 「会社を卒業した男性が時として無気力になってしまうのは、何をしても仕事ほどおもしろくないためです。『仕事』以外の価値基準を持っていない人がとくにそうなりがちです。しかしここでも多様な価値基準を持って物事を判断することが重要です。ちょっと見方を変えるだけで、いままで会社で培った高い能力を活かすことができる新しいフィールドが見つかります。でもそのときに、会社での常識や発想で対処せずに、その場所の価値基準を学んで判断していくことが大切です。マンション・コミュニティや地域社会に貢献して、違う世代に社会生活のノウハウを伝えていっていただきたいですね」
 ボランティアや地域活動などの場でも、社会経験が豊富な成熟した大人が、それまでに築いた「知恵」を生かせる時代。そう思うと、年齢を重ねることも、この複雑な社会に生きていることも、楽しいことだと思えてきます。

写真プロフィール
佐藤 眞一(さとう しんいち)
明治学院大学心理学部教授、日本老年行動科学会会長。1956年東京都生まれ。早稲田大学大学院博士後期課程満期退学。成人・高齢者心理学専攻、医学博士。WHO(世界保健機関)の「高齢者に優しい街作りプロジェクト」(Age Friendly City Project)日本代表委員。東京都老人総合研究所研究員、明治学院大学文学部助教授、ドイツ・マックスプランク人口学研究所上級客員研究員を経て現職。「介護カウンセリングの事例」(編著/一橋出版)、「高齢者の心理がわかるQ&A」(共編著/中央法規)、「『結晶知能』革命」(監修/小学館)など著書多数。