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江戸の生活の学ぶ「住まい方」の知恵 暮らしの安心は地域がつくる

 「江戸時代の生活を想像するってのは、非常に難しいんです。だって、電車、自動車や飛行機のない暮らしなんて、今の生活をしている人には想像がつかないでしょ」
 太平の世の大都市・江戸で、長屋という賃貸の集合住宅に暮らす先人たち。NHK『道中でござる』での解説や、江戸の暮らしを紹介した著書、小説でおなじみの石川英輔先生に江戸の庶民の住まい方、暮らし方について教えていただきました。

『長屋』は江戸庶民には十分なスペースだった

写真 「現代の建築家の中には、江戸の長屋はとても狭かったという人もいますがね、大きなお世話(笑)。昔のことを想像するときって、あくまで現在の自分の生活から一歩も踏み出さずに考えてしまうもんなんですよ」
 長屋は今の6畳ぐらい。一世帯4人5人と暮らすのも普通のことでした。当時の人は今より小柄でしたし、そして何より調度品も少なかったと言います。
 「たしかに幕末末期から明治の頃に日本に来た西洋人がみんな、日本の家には何もないって書いてます。でも江戸時代は、生活するのに家具が特別に必要なかった時代なんだよね。だからって長屋の暮らしが不便で不幸だったというのは絶対間違い。ものがないから不幸とは言えない」

プライバシーより「鍵」の無い暮らし

 「狭いからプライバシーがなかったとかもよく言われますけどね、ないのが当然。長屋で暮らしてれば何をしてても家族の視線がある。でもそういうところで生まれ育ってると何とも思わないんですよ」
 「若い人から聞かれたことがあるんだけど、時代劇で内側から戸に心張り棒おろしてるけど、出かけるときはどうするのかって(笑)。外から鍵をおろすようになったのはごく最近なんですよ」
 プライバシーなどない関係性だからこそ、人の目が行き届き、それが防犯にもなっていた。現代にも通じる話です。

長屋の事件は大家さんが解決

写真 江戸時代は行政もまた、隣近所の密接な関係性がベースとなっていました。
 「役人が全然いない世界なんですよ。江戸には55〜60万人の人が住んでたわけだけど、それを治める立場にある江戸町奉行所には、わずか290人。その中でおまわりさんは12人だけで、大家の組織である『自身番』という詰所に『何ごともないか〜』『へぇい』ってやってるだけ(笑)。だから実際に治安を守っているのは大家さんなわけです。」
 「町火消」も民間人で、本職を別に持つ人達でした。命を張って消火につとめますが、その報酬はそれほどではなく、「人助け」「町助け」という誇りでその職に就いていたといいます。

「このままでいいわけがない」と、思う心が大切

写真 「今の生活をやめろといったって誰もやめられっこないんです。ただ、せめてこんなことしてたらダメだと思うことです。今の時代は危険です。はじめ『老人病』と呼ばれていた高血圧や動脈硬化が、子どもがかかるようになって、今や年齢不問の『生活習慣病』だって。戦後正しいと言ってやってきたことが、ほとんど間違ってたってことですよ」
 だからといって悲観的になる必要はありません。石川先生は、人間は「慣れる」生き物だと言っています。
 「もし資源不足になって生活水準を下げることになっても大丈夫、すぐ慣れます。人間は『無い』ということにも慣れる生き物なんですよ。江戸時代の人達に学んで、お上に頼らず自分達のことは自分達で守っていけば、少しは世の中よくなるんじゃないですか」
 私たちの暮らしを物心両面で「豊かなもの」とするには、現代の「利便性」と江戸っ子の生活が持つ「精神性」とを融合するような、新しい暮らしの知恵が求められるのではないでしょうか。

写真プロフィール
石川英輔 いしかわ・えいすけ
1933年京都府生まれ
江戸の庶民生活、エネルギー、テクノロジーを研究。
著書『大江戸神仙伝』シリーズ、『大江戸庶民いろいろ事情』(講談社文庫、2005)、
田中優子氏との共著『大江戸生活体験事情』など。