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しまつは贅沢 京の生活の知恵に学ぶ暮らしのエコロジー

「それはもう、ありとあらゆるモノがありますよ。漬け物石から針1本まで。しげさんが『しまつというのは、物の生命を大事にすること』とお書きになったように暮らしの歴史すべてが収められているのです」
 武庫川女子大学教授の横川公子先生は、大阪・国立民族学博物館の“大村しげコレクション”研究チームの代表も勤めていらっしゃいます。
 大村しげさんは京の暮らしや食べ物のことを著した随筆家。「京の味」と京の女の「暮らしの知恵」を受け継ぎ、数々の名随筆を発表。特に「京のおばんざい」の魅力を全国に広めたことでも知られます。
 京都ならではの倹約の知恵を、本能寺裏手の五軒町家で実践していらした大村さん。64年間過ごされたそのご自宅には8万5千点以上という膨大な生活財が残されていました。

「良い物」を、「長く」使う

「着古して色が焼けてきた着物は染め直します。でも3回も染め直せば着物として使えなくなる。すると布のいいところ取りをしてはんてん半纏や小物にする。最後の最後、雑巾になった布もコレクションには収められています」
 エッセイには物を大切にされている様子が生き生きと描かれています。
「でもその着物はひとこし一越という最高級のちりめんじ縮緬地だったりします。つまり、倹約といってもただのケチとは違うのですよ(笑)。最初は高くついても本物を求め、最後の最後まで使い尽くす。現代のエコロジーに通じると思いませんか」

道具を「多機能」に使う

写真「道具の使い方では、一つのものを多機能に使う知恵も注目したいですね」
 たとえば切る道具。スライサー、調理ハサミ、ピーラー等がキッチンにあふれています。
「良く切れる包丁が一、二本あれば、事足りるんですけどね。そうした一見便利そうなものが、人間の身体能力を低下させてしまうことに、しげさんは強い抵抗を感じていたのでしょう。自ら行動し経験を積み重ねることで、自分にとって心地よい暮らしを実現する。しげさんが繰り返しお書きになった『根のある暮らし』という姿勢も、私たちの大切な指針になると思うのです」

町の縁、人の縁

写真 大村さんが再発見し、全国に広めた「京のおばんざい」。地元でとれた旬の食材をひと手間かけていただく、最近でいう「スローフード」ですね。
「しまつという点でいうと、エンドウマメのさや莢まで食べちゃう。だしを取った後のおこぶなんかも、チリメンジャコといっしょに炊いて佃煮にしたり…_」
 そうした再利用ができるのも、無農薬の本物の野菜や、最高級のだし昆布があるからこそ。京の町に生まれた縁、そして本物を知る人との縁、さまざまなコミュニケーションの糸が「始末という贅沢」を実現していたのでしょう。

住まいを「機能的」に使う

 本当にいいものを、とことん使い尽くす、多機能に使いこなす。コレクションから見えてきた暮らしの知恵は、限られた空間を有効に使うという意味で、現代のマンションライフにも反映できそうです。
「いま、いちばん興味を持って研究しているのが、収納の場所と中身の関係。しげさんは、たくさんの物を実に巧みに収納していたのです。それは現在の収納にも生かせる発見です」
 晩年、脳梗塞を患われましたが、リハビリ用にリフォームまでしていた大村さん。
「住まいも道具と同様に、自分の暮らしに合わせて使い尽くしていたんですね」
 “大村しげコレクション”は、便利さとは一見相反すると思える暮らしが、人間の身体能力をとり戻し、循環型社会の本質とは何かを訴えている宝物といえるのではないでしょうか。

写真プロフィール
横川公子 よこがわ・きみこ
武庫川女子大学教授。
専門は服飾史、生活美学。
国立民俗学博物館“大村しげコレクション”共同研究班代表。