個人クリニックにかかる税金の範囲と概算経費率

税理士

岩田修一

岩田会計事務所 所長

医業にかかる税制の基本構造を確認するとともに、医業収入とその経費計上を巡る基本的な論点として、概算経費率の特例制度について説明します。今号では、個人クリニックに視点を絞り、税務のポイントや留意点などをわかりやすく解説していきます。

1. 個人にかかる税金の範囲

税法上、個人クリニックにかかる税金の範囲は、一般の事業を行う「個人事業者」と同様の取り扱いとなります。

ちなみに、医療法人についても一般の会社(普通法人)と同じ法人として取り扱われます。したがって、個人クリニックにかかる税金としては、個人事業者と同じように所得税をはじめ、住民税や事業税、消費税、固定資産税(該当する物件等がある場合)などがあげられます。
しかし、一般の個人事業者や普通法人は、「会社法」を基礎としていますが、医療機関(個人・法人)は、「医療法」を基礎としているため、会計処理の方法や、余剰金の取り扱いなどについては、一般の個人事業者や普通法人とは異なり、医療機関独特の取り扱いになることに留意しなければなりません。適用される税法に関しては、医療機関であっても、一般の個人事業者や普通法人であっても、特別に変わることはないということです。
個人クリニックにかかる税金の範囲について整理すると表1のようになります。

表1:個人と医療法人にかかる主な課税税目

2. 「概算経費率特例制度」について

前述したように、個人事業者や普通法人と比べて、個人クリニックや医療法人への基本的な課税税目(課税方法)は変わりません。

ただし、クリニックや病院は、医療サービスを提供するという、その「公共性」の観点から、医療機関独自の税負担軽減の特例措置や、課税の計算方法が設けられています。そうした特例措置のうち、医業経営にとっての要諦ともいえるものとして、「概算経費率特例制度」があげられます。
この特例制度は、「個人・法人」という経営形態を問わず、社会保険診療報酬が5,000万円以下である場合は、その社会保険診療報酬にかかる経費について、実際に要した実額の経費ではなく、社会保険診療報酬に応じて定められた、いわゆる"概算経費"を用いて計上するというものです。
具体的には、社会保険診療報酬の金額に応じて、以下の表2のように、それぞれの率を乗じて、経費の金額を算出という特例の計算方法が認められているということです。

表2:社会保険診療報酬と概算経費の額(速算表)

上記の表にしたがって計算された「概算経費の額」が、「実際に要した経費の額」を上回る場合は、その"上回った部分の金額"が「実際には支出をともなうことなく経費として計上できる金額」ということになります。この場合、所得税を計算する上で、非常に有利になるということがいえます。
この特例制度を有効に活用するためには、以下のことに留意する必要があります。

上記の事項について、概算経費率特例制度の性質を踏まえ、十分に経営シミュレーションを行い、自院にとって適用したほうが有利なのかどうかをしっかり見極め、意思決定をすることが大切です。顧問する会計事務所に相談することをお勧めします。
また、先にも少し触れましたが、この特例制度は医療法人においても適用されるものです。しかし、医療法人の場合は、役員報酬の支給などを考慮すると、概算経費率の特例を適用することが有利になるケースは少ないため、あまり活用のメリットはないと考えられます。

3.「概算経費率」と「専従者給与」の比較

青色申告の場合、たとえば、院長の奥様に支払う給与は、届出を行うことにより、専従者給与として必要経費に算入することができます。

しかし、このようなケースでも、実際は概算経費率を適用したほうが有利になることがありますので、その点は、十分に検討する必要があります。後から、「専従者給与よりも概算経費率を用いたほうが有利だった」ということがわかったとしても(源泉所得税の支払いが終わった後)、専従者給与を取り消すことはできないので注意してください。そのためにも、専従者給与にかかる所得税や住民税の金額も含めてしっかりと事前に検討し、適切な対応をとることが重要です。
また、自由診療収入がある場合は、必要経費を社会保険診療と自由診療のそれぞれにかかる固有経費と共通経費とに分け、さらに共通経費を按分して、所得計算を行います。
したがって、全体の医業収入に占める社会保険診療収入の割合やそれにかかる必要経費の額によっては、概算経費率の適用の有利不利の関係が変動することが考えられますので、個別のケースにより適切に判断していくことが必要です。

4.経営上、法人成りのメリットとは?

課税所得ステージで求めた課税される所得金額に税率をかけて税額を求めます。さらに求めた税額から差し引かれるものを「税額控除」といいます。

近年、クリニックの経営形態を見ると、医療法人の設立が増加傾向にあります。ここで重要になるのは、法人成りのメリット・デメリットを院長先生自身がしっかり認識した上で、その意思決定をしているかどうかということです。
そもそも、医療法人の設立趣旨は、

にあります。
昭和60年の第1次医療法改正により設けられた「一人医師医療法人制度」で、昭和から平成にかけて飛躍的に医療法人の数が増加しています。しかし、その後、平成19年の第5次医療法改正により、「持分あり」の医療法人が廃止され「基金拠出型医療法人制度」が創設されたことで、医療法人設立の動向、流れも変化しました。

また、平成25年度税制改正において、「医業にかかる収入金額(保険収入に自由診療等を足した金額)が7,000万円を超える者については、概算経費率特例制度は適用されない」ことが追加規定されていることにも留意する必要があります。このような医療機関を取り巻く経営環境の変化をしっかり認識し、十分に考慮した上で、院長先生は、自院の経営方針に合わせて、医療法人化の可否や法人成りの時期などについて考えなければなりません。この点についても、顧問する会計事務所とよく相談した上で決定することが重要です。

まとめ

これまで、個人クリニックにかかる税金の範囲と概算経費率を中心に解説してきましたが、医業経営における税務対策のポイントは多岐にわたります。しかし、基本的には、

の上記2つの視点が非常に重要になるので、意識するようにしてください。
(2015年6月現在)

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