クリニック経営に役立つ数字の見方!
人件費は効率的に使われていますか?
─②生産性分析─

税理士

丹羽 篤

コンパッソ税理士法人 代表社員

今号では、自院の損益計算書の分析から、まず現在の経営状況をどのように把握すべきか、その上で経営にとって大きなポイントとなる"ヒトの問題"、人件費をめぐる生産性の分析について説明します。

1.損益計算書から見えてくるもの

現在の経営状況が把握でき、その上で医院経営にとって大きなポイントとなる生産性が分析できます。

下表は要約損益計算書です。これを概略して、
①医業収益
②収益にともない増減する変動費
③収益にかかわりなく発生する固定費
にわけて把握することができます。①から②と③を引けば医業活動からの利益となり、これに雑収入や利息などを加減して税引き前の利益となります。

計算上の利益はこのとおりですが、実際、手もとに残るキャッシュ(可処分所得)は、これに家族専従者あるいは法人の役員給与の額と、資金の流出がない減価償却費分を加算し、逆に費用とされていない借入金の元金返済部分と個人や法人に係る税金を控除して、はじめて可処分所得額を把握できます。

このなかで生活費や住宅ローンの支払い、ご子息の教育費などを賄い、さらに余裕があれば、引退後の資金準備や設備投資・人員採用なども可能となります。
逆にいえば、これらの計画も含めた合計必要可処分所得額を求め、その実現を①の収益の拡大、②の変動費の抑制による限界利益率の向上、あるいは③の固定費の見直し(圧縮)というそれぞれの視点から総合的に計画・実行することが経営課題であり、その相互の関係をまとめると以下のようになります。

2.人件費と生産性ー人財を活用した経営改善を!

給与費の効率を分析し、適正なスタッフ数の配置や適正な給与水準に基づく経営改善を行うことが重要な課題になります。

超高齢社会を前提に社会保障費の抑制のなか、診療報酬の伸びは期待できません。典型的な労働集約型である診療所の今後の経営を考えるとき、自院の固定費のなかで大きな割合を占める給与費の効率を分析し、適正なスタッフ数の配置や適正な給与水準に基づく経営改善を行うことが重要な課題になります。
下図の経営分析表は、人件費についての指標を、生産性の分析比率や医業収益に対する給与費比率の観点からまとめたものです。

(1)1人当たり医業収益高

自院の従事者(院長を含みパートは常勤換算、以下同じ)の1人当たりの効率を他院と比較する指標です。診療科により差がありますが、平均的には1人当たり100万円が1つの目安であり、貴院の職員数の適否の一般的な判断材料になります。

(2)1人当たり給与費

法定福利費等も含め給与費の総額を1人当たりで除した、病医院の給与水準を示す指標です。平均では26.5万円ですが、診療科によりバラツキがあります。1人当たりの医業収益高や医業利益などが高く、その結果、給与水準が高ければ経営内容が優れているともいえ、その高低だけが判断材料とはいえません。

(3)1人当たり限界利益

単に収益額ではなく従事員1人当たりが生み出した限界利益(医療原価控除後の粗利益)を現し、労働生産性(労働効率)を評価する重要な指標です。これが高ければ人件費へ配分できる原資が厚くなり、労働分配率も適正水準を維持できます。平均は86.1万円ですが、診療科目による粗利益率の差が顕著です。採用を考えるときも人件費の増加が、単なる(1)の増加だけでなく、この限界利益の向上に結びつくかが重要です。

(4)労働分配率

限界利益に占める人件費割合を示します。この比率の上昇は、生産性の上昇を人件費増加率が上回ることを意味し、収益の大きな圧迫要因になります。ただし安易な労働分配率の抑制(リストラや賃下げ)は、従業員の勤労意欲や診療の質低下の原因になります。1人当たりの限界利益と給与費は高く、労働分配率は低いという少数精鋭・高付加価値型が望まれます。

(5)人件費総額比率

医業総収益額に対する人件費総額(厚生費等を含む)の比率です。一般的には個人の診療所で30%、医療法人では役員報酬を含め60%程度が健全経営の上限と考えられています。

(6)従業員給与賞与比率

個人診療所の専従者給与や医療法人の役員報酬額は、利益状況による経営判断で支給額が左右される要素も多く、これらを除外したところでの従業員への真水としての支給額による、客観的な人件費比率として重要な比較分析指標です。20%程度が健全経営の平均的な目安とされています。
地域や診療科目による賃金水準や診療単価、必要(資格)人員数などの特性を考慮し、まず自院の人件費の現状を標準的な数値との対比で把握すること、そして必要とされる業務の質と量に合わせた適正な職員数を把握し、その効率的な配置を考えます。その上でそれぞれの職務の質に合わせた正規・パート・派遣などの雇用形態の組み合わせや給与水準を、自院の給与支払い能力の範囲を勘案しながら見直してください。

まとめ

生産性の向上は、効率的・合理的な職場環境の整備、職員の定着率の向上、仕事へのモチベーションやモラルを高める工夫を通じて実現されます。そのためには就業規則の整備や、適正な人事考課に基づく給与体系の構築が必要です。具体的には個々のスタッフの職務内容や業績、意欲を反映する公正な成果給や賞与の仕組みを作り、それを保証する研修や訓練機会を提供する。また予算と実績検証への参画や部分的経営成績の開示など、職員の原価意識・経営への参画意識を高めていけるような「人財」の活性化策が望まれます。
(2012年11月現在)

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