成功する事業承継の要点
~②医療法人クリニック編~
後継者へ事前の持分の移動が有効

税理士

丹羽 篤

コンパッソ税理士法人 代表社員

医療法人は「所有(出資持分)」と「経営」が分離しています。理事(長)の交代によって経営の承継が行われることになり、あわせて「出資持分(社員身分)」の承継の問題も発生します。
事業承継の進め方としては、(1)親族への承継(2)第三者への譲渡(3)他の医療法人との合併の3パターンが考えられますが、なかでも最も多い(1)と(2)のケースについて、具体的な事例(金額や背景はアレンジ)から、スムーズな事業承継のあり方を見ていきます。今号では、大部分を占める既存の経過措置型医療法人の事業承継に焦点を絞り解説します。

1.親族への承継のケース

具体的事例による課題と対応

■経緯
こうした状況のなか、子息は事業承継を見据え、既存の患者との接点をつくるために週1日程度診察を行うようになりました。
また、過去5年間で子息および子息配偶者に理事長より毎年、額面で25万円(評価額で350万円前後)の出資持分を贈与。現在の出資持分は理事長450万円・理事長夫人100万円・子息理事及び配偶者各125万円となっています。

今年の1月から子息は、勤務していた病院を退職し、Aクリニックに専念することになりました。
理事長も診療時間を調整し"準二診体制"を敷き、「新旧患者の確保」「代診医師の給与の削減」に取り組んでいます。

また、このタイミングで世代交代をアピールする意味からも、「ホームページの作成」「診療所の改装(二診体制対応、子息理事の配偶者理事は医師であり将来の従事も見据える)」を行い、あわせて「電子カルテ導入」「レントゲンのデジタル化」に着手しました。

■解決方法
こうしたことから設備投資が膨らむこともあり、理事長の交代と適正な理事長退職金を支給し、出資持分の評価額の引き下げを行い、相続時精算課税制度を利用した理事長夫妻からの持分の移動を行いました。

理事長は非常勤相当の理事・医師給与に減額されるが、診療所の賃貸収入もあり生計は維持されます。また今後反転上昇が予想される診療所の出資評価の増加による将来の相続税負担を、相続時精算課税の利用により現在の贈与時の評価額に抑える効果も期待できます。

ポイント! 医療法人の持分の承継・相続

相続の開始前に、後継者に出資持分の集中と、その社員・理事(長)への就任をスムーズに行っておくことが理想です。

医療法人の社員(出資者)は、出資額にかかわらず1人1票の議決権を有し、また退社にともなう出資額に応じた持分の払戻や、残余財産の分配請求権があります。これらが後継者以外により無定見に行使されると、医療法人の運営だけでなく財務面からもその存続が危ぶまれることになります。

出資額限度法人や、持分の定めのない医療法人への移行による出資額の評価の引き下げなども選択肢としてありますが、同族要件を含めて移行条件をクリアすることは、一般的な医療法人には困難となっています(平成20年7月の東京高裁で、解散時の残余財産の分配請求権は別にして、医療法人が存続し経営が継続している限り、退社による持分の払戻は出資額しか請求できないとの判決があり、今後の最高裁の判断が注目されます)。

持分の払戻や残余財産の分配については、出資額を超えた部分が配当として総合課税され、最高50%の課税となります。これを後継者等への出資持分の譲渡にすれば、譲渡所得として20%の分離課税で済みます。したがって事例のように、出資額の評価の引き下げによる譲渡や贈与を併行させた、地道な出資持分の移動が有効となります。

2.第三者への事業承継のケース

具体的事例による課題と対処

■経緯
理事長と承継者の両者の税理士・コンサルタントが介在し、資産査定することからはじまりました。理事長8,000万円、理事(配偶者・医師)4,000万円の退職金を支払った後、合計3億6,000万円で3人の社員が持分に応じ譲渡。のれん代(超過収益力)も考慮に入れていますが、理事長側の産科医院の継続の公益性への配慮により評価額は低めになりました。

■解決方法
産科という特殊性から半年以前から新患の受け入れを調整し、患者の直接の引き継ぎは行いませんでしたが、カルテはすべて承継し、また従業員も全員引き継ぎました。
理事の退任と新理事の就任、診療所名称の定款変更はすべて同日で認可をもらいました(医療法人の名称のみ後日に変更)。理事の同時全員入れ替えは、医療法人格の売買禁止に抵触するとして行政側で難色を示し、併行した在任期間を指導されるケースもありますが、地域の事情もあり行政側も協力的で、保健所や社会保険関連の届出事項の変更もスムーズに行うことができました。

ポイント! 第三者への譲渡の場合

理事(長)の変更は、一度、前理事が退社して持分の払戻を受けた後、新理事(長)が同額を出資すべきとの解釈もあるようです。しかし、この場合は、1で解説したような高率の配当課税が発生することになりますので注意が必要です。

"社員間"の出資持分の譲渡については、昭和57年6月の浦和地裁判決でも「定款に反しない限り容認される」とされており、実務的にも、譲渡が行われており、法人からの持分払戻ではないことから、配当禁止にも抵触しないと考えられます。譲渡する際の前提としては、承継前に社員の身分を獲得(入社)しておくことが重要となります。

第三者承継の場合、譲渡価額(評価額)は、のれん代の評価を含め当事者間の合意で決定できますが、信頼できる税理士等の介在が望まれ、その際、隠れ債務や医療事故、過去の診療報酬不正請求などのリスクの危険担保や、借入についての理事長個人保証の整理等もしておく必要があります。

承継前の適正な退職金の受給とともに、理事長所有の土地・建物などの資産は、事前に法人に譲渡しておくのか、承継後も賃貸関係を継続するのか、新旧理事長間で譲渡するのかなど、承継後の収入の確保や相続時の財産評価などもあわせて検討することが大切です。新設できない経過措置型医療法人をこの方法で取得することも考えられますが、単なる法人格の売買にならないように、実体をともなった承継となることが指導されます。

3.その他の承継方法

持分のない医療法人には、出資の譲渡という形態がなく、実務的には理事長退職金の支給や、不足なら承継後、実態を整えての非常勤理事報酬・医師給与での継続支払等も加味しての清算が考えられます(医療法人に十分な退職金などの原資がない場合、譲受側が追加の基金・資金の拠出をすることも必要になります)。

また合併については、総社員の同意と都道府県知事の認可により可能です。通常は吸収合併の形をとることになり、廃止や清算手続きが省略できるなどの利点がありますが、クリニック規模のレベルではあまり行われることはありません。

まとめ

先日、平成23年3月末の医療法人数が公表されました。医療法人制度の改正による出資持ち分のない基金拠出型医療法人の設立数が、当初の年間350件ほどから昨年は870件へと増加し、累計数で2,692件となりました。解散時の法人残余保財産の国庫等への帰属などが問題点として指摘されていたものの、日頃の運営 (役員報酬や役員退職金の支給等を通じた残余財産のコントロール)を注意深く行う、また親族に後継者がいる場合は逆に、利益の内部留保を通じて持分のないことによる相続税負担の圧縮による承継を実現するなど、節税や事業承継での医療法人化のメリットが再認識されていることの表れともいえます。
他方、平成元年前後に設立された多くの経過措置型(一人医師) 医療法人は、20数年を経て多くが病医院の承継時期を迎えなが ら、後継者の不在や、過大な相続税対策等に苦慮されています。超高齢化を迎えるなか、介護も含め医療の占める位置は更に重要性をまし、反面、医業経営は更に厳しい環境に置かれる方向にあります。それぞれの医療法人が置かれた個別の状況をしっかり把握し、適切な対応を図ることが迫られています。
(2011年8月現在)

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