変動損益計算書に基づく収支構造の把握が有効

税理士

岩田 修一

岩田会計事務所 所長

クリニックが健全経営を行っていくためには、自院の業績を細部にわたり把握し、問題点をタイムリーに掴み、適切な改善策を講じるなど、財務体質の強化が不可欠です。同時に業務品質の向上も欠かせません。部門別業績管理は、財務体質の強化と業務品質の向上を実現する有効なツールです。
今回は、その実践的な考え方について解説します。

1.戦略的な意思決定には「管理会計」の考え方が不可欠

「管理会計」の手法で有用なのが「変動損益計算書」の考え方です。

クリニックを経営していく上で院長先生が、経営資源の適切な配分などの戦略的な意思決定をしっかり行うためには、自院の収益の源泉とその現状を適切に把握することが重要となります。また、スタッフの公平な業績評価や人事考課を実現するためにも、利益の源泉となる最小の事業単位別に損益を把握することは非常に大切です。
しかし、これらのことを適切に行うためには、制度会計(財務会計ともいう)に基づいて作成されるクリニック全体の財務諸表や試算表だけでは限界があり、ここで「管理会計」という考え方を導入することが不可欠となります。
そして、「管理会計」の手法で有用なのが「変動損益計算書」の考え方です。

2.部門別業績管理手法としての変動損益計算書の有用性

変動損益計算書は「経営者の意思決定に役立つ情報を提供する」という点では、制度会計における通常の損益計算書より優れたものといえます。

院長先生は毎月、監査担当者から提供される試算表(B/SとP/L)や資金繰り表などで、自院の経営状況をタイムリーに確認していることと思います。
ここで、損益計算書(P/L)に一工夫を入れるとその有用性が格段に高まることになります。具体的には「変動損益計算書」を作成する(または、その考え方をよく理解する)ということです。
変動損益計算書とは、簡単にいうと、売上の増減にともなって変動する費用(変動費)と、売上が増減しても変動しない費用(固定費)に分解した損益計算書(P/L)のことです。
変動損益計算書は「経営者の意思決定に役立つ情報を提供する」という点では、制度会計における通常の損益計算書より優れたものといえます。
たとえば、以下のような経営判断に対し、変動損益計算書は簡単に応えることができます。

ここで、以下の算式(表)を基に「限界利益」と「固定費」との関係を次のように定義します。

そして、この損益構造の認識から、以下の損益分岐点の一般式(収支トントンの損益構造式)に書き換えることができます。

この一般式で見ると、限界利益と固定費が均衡する境界が"利益ゼロ"のポイントになります。つまり、利益を確保するためには、限界利益が固定費を上回っていなければならないことになります。

3.変動損益計算書を活用し意思決定支援の情報を入手

経営判断を支援する情報が簡単に計算できることになります。

「変動損益計算書」を用いることで、

などの経営判断を支援する情報が簡単に計算できることになります。
これを算式で示すと、

となります。

4.変動損益計算書の考え方を用いた部門別業績管理への展開

部門ごとの事業(収益)構造を明らかにし、部門ごとの実態に応じた経営判断が必要とされます。

一般的に企業経営では、部門(事業)ごとに事業(収益)構造が異なっています。そこで、変動損益計算書を部門別に作成することで部門ごとの事業(収益)構造を明らかにし、部門ごとの実態に応じた経営判断が必要とされます。そして、これはクリニックにおいても同様です。

5.医業会計データベースを活用した部門別業績管理のあり方

TKC会員税理士が提供する医療機関向け会計システム「医業会計データベース(MX2)」では、診療科(部門)ごとの医業収益、限界利益、固定費、経常利益等の状況をタイムリーに把握することができます。また、診療科ごとに業績を比較することができ、経営資源の選択と集中に向けた意思決定に有効な情報として活用することもできます。
また、MX2では診療科別だけでなく、病棟と外来、クリニックと訪問看護ステーションなど、機能や施設別の管理を行うこともできます。

まとめ

診療科別の収支構造等を把握して戦略的意思決定を行っていくためには「制度会計」の枠を超えて「管理会計」の考え方に立つことが重要であり、「変動損益計算書」の活用が有効です。変動損益計算書は「経営者の意思決定に役立つ情報を提供する」という点で優れた管理会計の手法です。そしてこの場合において、「固定費」を回収するに至るまでの「限界利益」を計上しているかどうかが収支管理の要諦となります。
(2011年6月現在)

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