開業医が考える住宅不動産投資

税理士

秋田 耕二郎

秋田會計事務所 所長

開業されている医師、歯科医師の中には、将来の安定収入の確保や財産の運用という観点から、アパートやマンション等住宅不動産に対する投資を考えている方、また既にいくつかお持ちの方もいらっしゃると思います。そこで、住宅不動産投資に関する注意点を税務会計の側面から解説いたします。

1.事業所得と不動産所得

所得税は、個人の儲け(所得)に対して税金をかけるというものですが、個人の所得のパターンや事情は人によって様々です。

病院・診療所等を個人で開業している医師・歯科医師は、毎年所得税の確定申告をすることになります。所得税は、個人の儲け(所得)に対して税金をかけるというものですが、個人の所得のパターンや事情は人によって様々です。そこで所得を個人が受ける収入の種類によって大きく10個の区分に分けて、それぞれの所得を計算します。それをまた全部合計してその年の、その個人全体の所得を算出した上で、税金を計算します。赤字の所得があれば、原則として、一定の方法により他の黒字所得と相殺(損益通算)されることになります。
病院・診療所等から生じた所得は、事業所得となります。その他、ほかの病院等に非常勤で勤務している場合の給料や学校医・嘱託医などの派遣医手当等は給与所得として申告します。
住宅不動産投資物件として、賃貸用のアパートやマンション等を購入して、入居者から家賃をもらうようになると、不動産所得という所得が発生します。不動産所得の儲け(所得)がでれば、病院・診療所等から生じた事業所得や給与所得と合計して税金が計算されます。ただし、不動産所得が赤字(損失)であった場合には、その損失額のうち土地を購入するために借りた借入金の利息分は、ほかの黒字の所得と損益通算できませんので、注意が必要です。

2.利益とキャッシュフローの違い

病院・診療所等の事業所得と同様に、不動産所得も計算上の利益と実際のお金の流れ(キャッシュフロー)は通常一致しません。

不動産所得で特に注意が必要なのは、家賃が滞納されていても所得計算上は収益として計上しなければならないということです。従って、既に入居者のいる物件を購入する際は、家賃の滞納がないか、入居者のなかに過去に滞納したり近所とトラブルを起こした者がいないか、よく調べておく必要があります。新規の入居者についても職業や収入、保証人の有無等事前によくチェックして、しっかり家賃が回収できるようにしておかなければなりません。
また、賃貸物件は多くの場合、銀行等からの借入金によって購入することになりますが、その借入金の元金返済部分は経費にはなりません。経費になるのはその利息部分だけです。
逆に、購入した物件(多くは土地と建物)のうち建物部分については、減価償却費としてその建物の使用と時の経過による劣化部分が経費となります。実際には、建物等の耐用年数に応じた償却率を使って計算します。減価償却費は、現金の支出はありませんが、経費となりますのでその分税金が安くなります。

3.礼金・敷金の取り扱い

住宅不動産賃貸業の収入は、家賃収入だけではありません。それ以外に礼金、敷金というものがあります。

たまに敷金、礼金無しという場合もありますが、入居時に礼金、敷金を入居者が支払っている場合が一般的なようです。
礼金は、その名の通り家を貸してくれる大家さんへのお礼ですから、もらったら返す必要はありません。従ってこれは収入になります。対して敷金は、家賃の未払いや部屋を汚されたり壊されたりした時などのための担保として預かっているものですから、入居者が退出するときには、入居者に返却しないといけません。一時的に預かっているだけですから敷金は収入にはなりません。
ただし、契約書に最初から敷金のうち○○%(または○○円)は返却しませんと定める場合があります。この場合は、敷金として預かってはいますが、返す必要がありませんので、礼金と同様に収入になります。

4.事業的規模

住宅不動産賃貸をする場合に、その不動産の貸付けが事業といえるだけの規模(事業的規模)で行われているかどうかによって、税金の取り扱いが違ってきます。

例えば65万円の青色申告特別控除は事業的規模の場合のみ適用されます。事業的規模でない場合には、青色申告の届出をして、きちんと帳簿を付けていても10万円の控除しかありません。また、不動産所得のために専従している家族がいても、事業的規模でなければ給与を支払うことができません。さらに、将来その建物を取り壊すこととなった場合に生じる損失額は、事業的規模であれば、全額必要経費として計算できます。つまり損失額が大きく、不動産所得がマイナスになったときは、事業所得等と損益通算することができますので、その分税金負担が少なくなります。しかし、事業的規模でない場合は、その損失額は不動産所得の範囲でしか経費となりません。従って不動産所得をマイナスで申告して、事業所得等と損益通算することはできません。
その事業的規模かどうかを判断する目安として「5棟10室」という基準があります。
戸建ての場合は5棟、マンションやアパート等については、貸すことができる独立した部屋数が10室以上であれば、原則として事業的規模であると認めるというものです。10室以上あるアパートを不動産管理会社に一括で貸し付けている場合でも、それは10室として取り扱います。戸建てとアパート等の両方を賃貸している場合には、おおむね戸建て1棟はアパート等の2室に相当するものとして計算することになります。

5.家族への給与

事業的規模の基準を満たしていれば、専らこの住宅不動産賃貸業に従事している家族に給料を支払うことができます。

所得税法では、原則として家族に対する給料は経費として認めていません。しかし、事業的規模の基準を満たしていれば、専らこの住宅不動産賃貸業に従事している家族に給料を支払うことができます。青色申告をしている場合には、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出することによって、世間の常識程度の給与を支払うことができます。賞与も支給できますが、退職金は払えません。開業している医師の場合、ほとんどいないと思いますが、白色申告の場合には、払える給料の額は、配偶者には86万円、それ以外の人は50万円までと決められています。

6.修繕費と資本的支出

気をつけなければならないのは、修繕費のなかには、その全額をその年の経費にはできない場合があるということです。

住宅用不動産賃貸業を営んでいると、いずれ修繕という問題が発生します。新築物件の場合には、修繕費はほとんど発生しないかもしれませんが、ある程度古くなるとそのメンテンスに相当な額が必要になります。
気をつけなければならないのは、修繕費のなかには、その全額をその年の経費にはできない場合があるということです。壊れた物の修理や通常の維持管理のための支払いは、全額その年の経費になります。しかし、一般に修繕費といわれているものでも、その修理工事等によって、建物の価値が上がったり、使用可能期間が長くなったりする場合などは、その年の経費ではなく、資産として処理し減価償却をする事によってその耐用年数にわたって経費にしていきます。建物や部屋の用途を変更するための改装工事、例えば事務所用だった部屋を、住居用に改装する場合なども資産となります。このように全額その年の経費にならないで、資産となるような支払いを「資本的支出」といいます。
なお、修繕費か資本的支出か判断が難しい場合に、次のような条件を充たしている支出については、その支出を修繕費として所得金額の計算を行い、確定申告すれば、その年分の経費にすることができます。

7.固定資産税

土地や建物を所有していると、固定資産税と都市計画税がかかります。

固定資産税・都市計画税は、その年の1月1日にその土地建物を所有している人が、その物件のある市町村に納めます。東京都特別区は都に納めることになっています。
所得税は、自分で計算して税務署に申告しますが、固定資産税・都市計画税は、市町村が毎年、納税額を計算して各人に通知してきます。
納付期限は、原則4月、7月、12月、翌年2月ですが、一括して納めることもできます。
■税率は

※税率をかける金額は、その年の1月1日現在の固定資産税評価額に一定の調整を加えたもので、その土地建物の購入価額や現在の市場価格ではありません。
※固定資産税評価額は3年ごとに市町村が評価額を見直ししています。

8.物件購入時の税金と諸費用

土地建物を購入する際の税金とその他の費用には、次のようなものがあります。

(1)仲介手数料
(2)契約に係る印紙税(平成9年4月1日から平成23年3月31日まで)
(3)登録免許税(平成18年4月1日以後)

※1:一定の住宅用家屋については税率が軽減されます。
※2:土地の売買による所有権移転登記の税率は、以下となります。

※3:一定の住宅取得資金の貸付等については、税率が軽減されます。

(4)不動産取得税

※1:一定の居住用不動産については、課税標準の特例、税額控除の適用があります。
※2:平成9年1月1日から平成24年3月31日までに取得した宅地については、固定資産税評価額の1/2相当額になります。
※3:平成24年3月31日までに取得した場合の税率です(本則4%)。
※4:次のような免税点が設けられています。

※5:居住用不動産の特例の適用を受けるためには、原則として申告が必要になります。

(5)その他

ローン手数料・ローン保証料、団体信用生命保険料、火災保険料、司法書士報酬などがかかります。

9.物件売却時の税務上の取り扱い

将来、その住宅用不動産を売却した場合には、不動産所得ではなく譲渡所得として申告することになります。

譲渡所得はその譲渡価額(売却価格)から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
取得費は、建物の場合には、その売却した物件を購入したときの取得価額(仲介手数料や登記費用などの諸経費を含む)からその売却時までの減価の額を引いて求めます。土地の場合は、その売却した物件の取得価額になります。土地は時の経過や使用によって価値が下がりませんので減価の額を引きません。譲渡費用は、今回の売却のためにかかった諸経費です。
譲渡所得の計算上マイナスになった場合でも、土地建物等の譲渡による損失の額は、事業所得等他の所得と相殺(損益通算)できませんので注意が必要です。

まとめ

開業医が、医師と病院・診療所等の経営者という重責を担いながら、住宅不動産投資で成功し期待する成果を上げるには、事前の充分な調査・研究と将来起こりうる様々なリスクを織り込んだシミュレーションを念入りに行い、しっかりした資金計画、収支計画を作成する事が重要です。
そのためには、税理士、FP、不動産投資コンサルタント、不動産管理会社等信頼できる専門家とよく相談しながら進めることが必要です。特に住宅不動産投資には税金の問題が複雑にからんできますし、金額も大きくなるので、税金の専門家である税理士を上手に活用する事をお勧めします。
(2011年3月現在)

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