医療法人における生命保険の活用ポイント

税理士

秋田 耕二郎

秋田會計事務所 所長

個人経営のクリニックの場合には、院長個人の生命保険料は事業所得の計算上必要経費にはできませんでした。これに対して、医療法人はその法人が契約した一定の生命保険契約に係る保険料は損金にできますので、生命保険を上手に活用することも医業経営の重要なポイントになります。

1.生命保険を使った節税対策

医療法人が契約する生命保険契約でも、その支払った保険料を税務上損金に計上できるのは一定の要件を充たすものに限られます。

その代表例が「定期保険」といわれるもので、一定の期間内に保険事故が生じた場合に保険金が支払われるといういわゆる掛け捨てのタイプです。その保険期間中に保険事故が起こらなければ、支払った保険料は無駄になり、損する可能性のあるものです。いずれどこかで必ず保険事故が発生し、必ず保険金が手に入る「終身保険」などは、損をする可能性がなく、損金には認められません。医療法人にとって、支払った保険料が損金に計上できれば、法人の利益がその分少なくなりますので、法人税等の負担を軽減できます。

■活用例
利益が1,000万円の医療法人が400万円の保険料を支払う場合
 ①生命保険を活用しない場合
  1,0000万円×35%(実行税率)=350万円(法人税等納税額)
 ②全額損金となる生命保険契約に加入し保険料400万円を支払った場合
  (1,000万円-400万円)×35%(実行税率)=210万円(法人税等納税額)
※実行税率は、社会保険診療に係る事業税の非課税部分を考慮したものです。
    節 税 額      350万円-210万円=140万円
    実質保険料負担額   400万円-140万円=260万円

単に法人税等の税額が140万円節約できるだけでなく、実質260万円の負担で保険料400万円分の生命保険契約に加入できることになります。

2.標準補償額

医療法人の理事長に万が一のことがあった場合でも、病院やクリニック等を安定した状態で継続させるためには、相応の資金が必要になります。

その備えとして多くの医療法人が生命保険を利用しています。その必要な資金の額は各医療法人によって異なりますが、一般的に必要な保険金額の目安(標準補償額)は次のような必要資金項目の合計額を基準にもとめることができます。

■標準補償額の算定項目
 ①当面の運転資金
 ②借入金の返済資金
 ③その他の負債の支払資金
 ④理事長の退職金
 ⑤納税資金※

※受け取った保険金は原則として収益となります。その収益となる保険金を退職金等費用の支払いに全て使えば利益は増えませんが、借入金の返済など費用とならない支払に充てられたものがある場合にはその分利益が増えるため、法人税等の負担も増えます。増加する税金分の納税資金の準備が必要になります。

3.退職金の適正額

医療法人は、理事長自身の退職金を損金として計上できる。

個人経営の病院やクリニックの場合は、経営者であるドクターが勇退することになっても、自らに退職金を支給することはできませんが、医療法人は、理事長自身の退職金を損金として計上できます。これも個人経営とは違う医療法人のメリットの一つですので充分に活用したいものです。 上記2.の標準補償額として準備しておくべき理事長の退職金は次のような算式で求めることができます。同規模の医療法人に比して過大であると判断されると税務上損金にできなくなるので注意が必要です。

■退職金支給額の目安

退職金
最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率※
 ※理事長の功績倍率は3倍程度が目安です。
特別功労金
退職金の30%まで加算することができます。
弔慰金
死亡退職の場合には、退職金とは別に弔慰金を支給することができます。
弔慰金は以下の金額までは相続税がかかりません。
・業務上の死亡  報酬月額×36ヶ月
・業務外の死亡  報酬月額×6ヶ月

万が一の場合の標準補償額とは別に、勇退時の退職金の準備にも生命保険を活用することができます。解約返戻金のある長期の定期保険で勇退時に解約返戻金が最大になるように設計したものなどが一般的によく活用されています。

4.相続税納税資金対策

理事長が亡くなった場合、理事長の有していた医療法人の出資持分が相続財産となり相続税の課税の対象になります。

その出資持分は通常後継者である子が相続することが多いのですが、相続財産の大半が医療法人出資持分であるような場合、相続税の納税資金がなくて困る事態がおこります。出資持分は売るに売れない現金化できない財産です。後継者に相続税の納税資金も相続させるためにも生命保険等を活用して退職金を現金支給できるよう準備しておくことが重要です。また、相続人間の遺産分割の調整をするためにも現預金の相続財産は必要になります。

今回のまとめ

医療法人における生命保険契約の活用方法の一例をご紹介しました。生命保険契約は通常長期間にわたるため支払保険料も累計すると相当な金額になります。無駄な保険料を支払わないためにも目的と保険の内容をしっかり確認した上で契約しましょう。また医療法人の状況やとりまく環境も年々変わってきますので、細かな見直しも欠かせません。
(2007年10月現在)

〜ドクターのための豊富なTKC税務講座一覧〜

他にも医業経営に役立つ情報が満載です。様々な税務講座をご用意しております。
「+」をクリックすると内容を一覧できます。

医院経営について

会計
戦略
税制
その他