法律の改正と政府の拡充の方針などにより、大きな可能性が生まれているサービス付き高齢者向け住宅事業。新制度の開始にあたって、いま事業者に求められていることとは何なのか、一般財団法人 サービス付き高齢者向け住宅協会会長の橋本俊明さんにお話をうかがいました。


- 政府は、2020年までに約60万戸のサービス付き高齢者向け住宅を整備するという方針を掲げています。
- 橋本:日本では、1990年代半ばから2000年代にかけて高齢者向けの「施設」の整備を行ってきました。それが、高齢化社会の先進地域であるヨーロッパ並みの割合にまで増えたところで、今度は「住宅」を整備して、高齢者がより自由に、住みたいところに住める環境を整えようという流れになっている。日本でも、新たな段階に入ったということです。
- 「施設」ではなく「住宅」を整備することには、どのような意味があるのでしょうか。
- 橋本:「施設」と「住宅」との大きな違いは、高齢者の自立(自己決定)を大切にし、自由を尊重することにあります。サービス付き高齢者向け住宅も、必要なサービスを提供することで、自宅と同じように自由に、しかも安心して暮らせる環境をつくることを目的としています。サービス付き高齢者向け住宅のサービスのうち、最も重要なのは食事の提供です。
それに加えて、人との交流ができる共用スペースがあること、安全で使いやすい設備や緊急時対応といったサービスが、高齢者であるがゆえの暮らしにくさを低減します。
それによって、要介護度の低い人たちは、施設に入ることなく自立して生活できる可能性があるのです。 - 高齢化社会を迎える日本で、大きな可能性がある事業だと。
- 橋本:そうです。加えて、日本には普及を後押しする要素もあります。「施設」から「住宅」へ、という動きも発端はヨーロッパでしたが、1棟1棟、個別に法律的な問題をクリアする必要があるヨーロッパに比べて、日本には介護保険制度がある。
制度的なインフラが整っている日本でこそ、より普及・発展していく可能性があると考えています。 
- サービス付き高齢者向け住宅協会では、制度の認知促進に向けて、広報活動やセミナー開催など、様々な活動をしておられます。理解は深まっているのでしょうか。
- 橋本:努力を重ねているところですが、残念ながら、事業者の間でも正しく理解されていない部分があります。
たとえば、「決まった時間に食事をしなければならない」と強制するのは「施設」の考え方。「運営者の都合で、契約した部屋を変える」「利用できる病院や介護事業者を限定する」というのも同じです。また、入居者の要介護度が上がると転居を求める、などというケースもあるのですが、こうした運営は、この制度の趣旨から逸脱しています。
よく理解していただきたいのは、「サービス付き高齢者向け住宅は賃貸住宅である」ということです。自分の家で暮らす場合に時間や場所を強制されたりしませんし、自分の意思によらずに転居することも考えられないでしょう。要介護度が上がった場合には、「住まい」を変化させるのではなく、ケアの部分を手厚くすればいいのです。「住まい」と「医療・介護」を切り離して考えることが、とても重要なのです。 - 「高齢者向け」であるために、つい特別な考え方をしてしまう、ということでしょうか。
- 橋本:どうしても、これまでの「介護施設」の考え方を持ち込んでしまうのでしょうね。もちろん、入居者の状況は一人ひとり違いますから、現場では柔軟に対応する必要があります。けれど、大前提として、賃貸契約や、介護保険、医療保険の考え方を守っていただきたい、と申し上げています。サービス付き高齢者向け住宅を正しく普及していくためには、こうした基本理念を理解していただくことが、とても重要ですから。


- これからサービス付き高齢者向け住宅を円滑に運営していくために、事業者側はどのような考え方が必要でしょうか。
- 橋本:サービス付き高齢者向け住宅は賃貸住宅ですから、入居者満足が高ければ入居率も上がるし、満足しなければ退去する自由もある。住まいとしての質、医療・介護の質が問われます。
そこで重要になるのが、事業者どうしのネットワークです。サービス付き高齢者向け住宅には「賃貸住宅事業」「医療事業」「介護事業」という3つの側面がありますが、不得意な部分は他の事業者と連携して行えばいいのです。信頼できるパートナーと協力することは、運営上のリスクを低減し、よりよいサービスを提供することにもつながります。 - 最後に、サービス付き高齢者向け住宅の将来像についてお聞かせください。
- 橋本:事業者どうしがオープンなネットワークを形成しながら、自由に協力し、競争する。それによって質の高い住まいとサービスを提供することができれば、事業者にとっても入居者にとっても理想的な状況が生まれると思います。この分野に高いニーズがあることは事実ですし、その意味で、事業としても大きな魅力があります。だからこそ、正しい理解と運営によって、広く社会に普及することを願っています。
- ありがとうございました。
- <「サービス付き高齢者向け住宅協会」ウェブサイトはこちら>



